「あの人のいい人オーラに、つい乗せられてしまう」——その感覚の正体はどこにある
「断ろうと思っていたのに、笑顔で頼まれると『はい』と言ってしまう」「親身に相談に乗ってくれる人だと信じて、気づいたら高額な契約を結んでいた」「身近なあの人の都合の悪いところを見ても、きっと悪気はないのだろうと、すぐ自分のほうで理由をつけてしまう」。こういう後悔を、どこかで覚えがないだろうか。
人を疑うことが、どうしてもできない。顔を見ると、悪い人には見えない。言葉を信じるほうが、疑うよりずっと楽だ。そして気づくと、またいいように使われている。これを「騙されやすい=おめでたい」と笑って済ませてしまえば簡単だ。けれどそれだと、なぜ自分が、なぜそういう場面で、毎回信じ込んでしまうのかが、ちっとも見えない。
あの「人を信じ込んでしまう」感覚の正体は、お人好しという性格の欠点ではない。性格——とくにビッグファイブで測られる五つの因子のうち、協調性と呼ばれる軸の傾きと、もう一つ別の性質の組み合わせが、ごく自然に見せているものだ。自分を責める前に、信じすぎる力がどこから来るのかを、性格の言葉で少し整理してみたい。
騙されやすさと結びつく、二つの性質
ビッグファイブの協調性(A)は、ひとくちに「協調性」と言っても、実はいくつかの細かい面(ファセット)からできている。他人に配慮できるか、素直に従うか、けんかを避けられるか、そして——人を信じやすいか。この最後の「信頼(trust)」と呼ばれる面が高い人は、相手の言葉を、まずは善意として受け取る。
協調性が高い人全体が騙されやすい、という話ではない。協調性が高くても、相手を見る目が育っている人は、信じつつも鵜呑みにしない。けれど、協調性のなかの「信頼」という特定の面が強く振れていると、疑うという作業そのものが後回しになる。「この人は悪い人ではないはずだ」という前提が、証拠より先に立つ。相手の都合の悪い言動が出ても、それを自分のほうでうまく説明して、信じる状態を保とうとする。
もう一つ関わるのが、相手の話の矛盾や、だまそうとする意図に気づきにくい「疑いにくさ」だ。これは単純に性格がよい、悪いという話ではない。研究では、騙されやすさは感情の揺れや、自分の判断への自信の持ちにくさなど、複数の要素と関係することが示されている。協調性だけで、実際に被害に遭うかどうかが決まるわけではない。
つまり、騙されやすさの背景には「相手を善意的に信じる傾向」に加えて、断りにくさ、急がされたときの判断、経験や知識などが重なっている。「騙されやすい=おめでたい」という一言では、拾いきれない要因がある。
研究で指摘される、騙されやすさと関わる性質
ビッグファイブの「信頼(trust)」が高い:相手の言葉をまず善意として受け取り、疑うのが後回しになる
疑いにくさや判断への自信:話の矛盾に気づきにくかったり、相手に押されると判断を譲ったりすることがある
これらは一つの性格だけで決まらず、状況や経験によっても変わる
この記事の話は、ビッグファイブでいう「協調性」と関わりがあります。自分の協調性がどのくらいかは、5分で測れます。
自分の協調性を測る(無料・登録不要)「信じる力」が、搾取する人と一番相性が悪い理由
ここで、もう一つ置いておきたいことがある。騙される側の性質だけでは、被害は起きない。必ず、搾取する側がいる。
ダークトライアドと呼ばれる性質——マキャベリ主義、自己愛、サイコパシー——の強い人には、他者を操作し、利用しやすい傾向がある。そして、従順で、断れず、信じ込みやすく、波を立てない人が狙われることもある。つまり、協調性が高く信頼しやすい人は、搾取する人に付け込まれやすい相手になりうる。
これが、この悩みのやっかいなところだ。信じる力そのものは、本来、関係を育てる貴重な性質だ。チームの空気を和らげ、人を安心させ、信頼を築く。それが搾取する人と出会うと、同じ性質が、たちまち一番の弱点に反転する。「自分が信じるから騙されるのだ」と自分を責めたくなるけれど、信じる力が悪いのではない。その力が、悪意のある人に向けられたままになっているだけだ。問題は、性質そのものではなく、向き先のほうにある。
「騙される方が悪い」が、ひどくまちがった問いであるわけ
ここまで読むと、「じゃあやっぱり疑う力を持てと言われているのと同じじゃないか」と思うかもしれない。けれど、この話を「騙されない工夫をしなかった自分が悪い」で終わらせてはいけない。その考え方には、二つの点で無理がある。
一つは、騙されるかどうかは、被害者側の性格だけで決まるわけではないこと。詐欺や精神的搾取の手口は、信頼しやすい人でなくても抜け出せないようにつくられている。専門家が組織的に練った言葉と、個人の「もう少し気をつければよかった」という工夫では、そもそも勝負にならない。それを性格のせいにするのは、搾取しているほうの責任を見えなくする。
二つめは、騙されたあとの恥ずかしさが、かえって被害を隠してしまうこと。「こんなのに引っかかるなんて」と思うと、人に言えなくなる。騙す側は、まさにその恥を利用する。声を上げにくくさせることで、被害を長引かせる。だから「騙される方が悪い」という空気は、搾取する人の都合のいい話であって、被害を逃れようとする人の足を引っ張るだけだ。
要するに、ここで問うべきは「どうして自分は騙されたのか」ではなく、「どうしてその人は騙したのか」だ。責任は、搾取した側にある。性格の傾きを知るのは、自分を責めるためではなく、次に同じ手口に引っかからないためにある。
性格は直さなくても、防ぎ方は変えられる
では、信頼しやすく、断れにくい自分は、どうすればいいのか。性格そのものを、急に冷たく変える必要はない。信じる力を捨てる必要もない。変えるのは、向き先と、一つの習慣だけだ。
まず、相手の言葉を信じるのと、行動を信じるのを分けること。最初からすべてを疑う必要はない。けれど、お金や契約、体や時間を預ける——つまり取り返しのつかない行動が伴う場面では、言葉だけでなく、その人が過去にどう行動したかを見る。行動の証拠が出るまでは、「信じるけれど、預けない」。この習慣は、被害を避ける助けになる。
それから、「今すぐ決めて」という圧力を受けたら、いったんその場を離れて第三者に相談すること。正当な取引なら、検討する時間が用意されているのが一般的だ。待たせると怒る、今でないとダメだと言い張る態度を、警戒のサインとして使う。
一方で、すでに騙され、利用され続けているなら、一人で抱え込まないでほしい。詐欺や悪徳商法なら消費者ホットライン(188)、付きまとわれる不安やストーカー被害なら警察相談専用電話(#9110)、パートナーからの暴力や精神的搾取ならDV相談ナビ(#8008)がある。騙されたことを恥じる必要はない。こうした窓口は、毎日同じような相談を受けている。ここで書いたのは、あくまで「傾向を知る」ための話で、法的・医療的な診断ではない。
自分のビッグファイブを一度見てみてほしい。協調性はどのくらいか。数字が出れば、「人を信じやすい傾向には、性格も関係しているのかもしれない」と、お人好しという自分への責め方を見直すきっかけになる。そのうえで、信じる力の向き先だけを少しずつ整えていけばいい。