「でも」から始まる報告を、何度も聞いている
こちらは責めたいわけではない。今日中に出せるかどうかだけ知りたい。それでも話は事情のほうへ伸びていく。途中で遮ると角が立つので、最後まで聞く。聞き終わってから、もう一度「で、終わってます?」と聞き直す。
やっかいなのは、言っていることがたいてい本当だということだ。先方の返事は本当に遅かったし、割り込みも本当にあった。だから否定できない。否定できないまま、知りたかった一行だけが手に入らずに終わる。
この往復が何度か続くと、その人に聞くこと自体をやめる。ここがいちばん静かに効いてくる損失だと思う。
言い訳には、後出しと先出しの2種類がある
先に分けておきたい。言い訳には、時間の向きが違う2種類がある。
後出しは、終わったあとに理由を述べるもの。「できませんでした。なぜなら」。周りが困るのはこちらだ。事実の確定が遅れて、次の手が打てない。
先出しは、始まる前に置いておくもの。「昨日あまり寝てなくて」「今ちょっと立て込んでて」。まだ何も起きていないのに、うまくいかなかったときの理由が先に用意されている。周りはさほど困らない。困るのは本人のほうだ。
見分けるのは難しくない。その言葉が出た時点で、仕事が終わっているかどうかを見ればいい。終わっていれば後出し、まだ手つかずなら先出しだ。
この2つは見た目が似ているので、まとめて「言い訳が多い人」と呼ばれる。ところが中身は逆を向いている。後出しは事実を見えにくくする方向に働き、先出しは自分の力を出し切らない方向に働く。同じものとして叱ると、両方こじれる。
この記事の話は、ビッグファイブでいう「誠実性」と関わりがあります。自分の誠実性がどのくらいかは、5分で測れます。
自分の誠実性を測る(無料・登録不要)先出しの言い訳には、名前がついている
先出しのほうには、心理学の名前がある。セルフハンディキャッピング——自分で自分に不利な条件を、先に置いておくことだ。
試験の前日に部屋の掃除を始める。大事な打ち合わせの前に「寝てないんですよね」と言っておく。うまくいかなければ「条件が悪かった」で済み、うまくいけば「あの条件でやり切った」になる。どちらに転んでも損をしない形が、先に作られている。
なぜやるのか。長いあいだ「自信がないから」と説明されてきた。ところがUysalら(2012年)の3つの研究(合計289人)で、別のものが見つかった。自制心が低い人ほど、これをやる。しかもその関係は、自尊心・自己不信・社会的に良く見せたい気持ち・性別を計算に入れたあとも残った。
つまり「自信をつけさせれば直る」ではない。もっと手前、やると決めたことに自分を運べるかどうかのところで起きている。
先出しは、本人を確実に削る
先出しの厄介なところは、本人が損をしている自覚を持ちにくいことだ。実際には削られている。
Zuckermanら(2005年)は、4つの研究でこれを追った。時間が経つほど、この癖と不適応が互いを強め合っていた。有能感が下がり、それを通って気分が悪くなっていた。物質の使用が増えていた。仕事への内発的な動機も下がっていた。
順番が大事だと思う。力が出ないから保険をかけるのではなく、保険をかけるから力が出なくなる。全力を出さない理由を先に置けば、実際に全力は出ない。出ないので、次はもっと厚い保険が要る。
研究者は、自尊心が状況によって揺れる人が、もろい自己像を支えるためにこれを使うのだろうと述べている。守っているつもりのものが、守るたびに薄くなっていく。
周りから見ると、もっと単純な形で表れる。半年もすれば「あの人はいつも何かを抱えている」と覚えられる。保険そのものは毎回忘れられるのに、抱えているという印象だけが残っていく。
ビッグファイブで見ると、2つがそろったとき
ここで性格の話に置き換える。意外に思われるかもしれないが、誠実性(勤勉性)が低いだけの人は、言い訳が少ない。やらなかったことを気に病んでいないので、説明する必要がない。「あー、まだです」で終わる。
感受性(神経症傾向)が高いだけの人も少ない。気に病むぶん、理由は外ではなく自分に向かう。出てくるのは言い訳ではなく謝罪になる。
言い訳が増えるのは、この2つがそろったときだ。やれなかったという事実があり、同時にそれを気に病む心がある。放っておけない、けれど自分のせいだと認めるのは重すぎる。その隙間に、外側の理由が入ってくる。
だから言い訳の多さは、怠けの証拠でもなければ、図太さの証拠でもない。気にしているのに動けなかったという、いちばん居心地の悪い状態の表れだと思う。そう見ると、責めても増えるだけなのが分かる。責めるほど気に病む側が強くなり、隙間が広がるからだ。
ついでに言えば、誠実性が低いこと自体は欠点ではない。段取りを決めきらずに動ける人は、状況が変わる仕事では強い。問題は低さではなく、その低さと自分の折り合いがついていないことのほうにある。
責めずに事実だけを引き出す、4つの聞き方
目的を「反省させる」に置くと長引く。「事実を確定させる」に絞ると、使える手が残る。
| やること | 具体的な言い方 | なぜ効くか |
|---|---|---|
| 理由より先に、事実を1つ確定させる | 「いま、どこまで終わっていますか」 | 説明の途中でも答えられる。事実が1つ立つと、話が前に進む |
| 過去でなく次の1手を聞く | 「次にやることを1つだけ決めませんか」 | 責任の話にせずに、行動だけ引き出せる |
| 理由を否定しない | 「その状況は分かりました。そのうえで」 | 否定すると説明が長くなる。認めてから接ぐほうが早い |
| 先出しは、その場で軽く受ける | 「そうなんですね。じゃあ、どこまでできそうですか」 | 保険を否定せず、量の話に変える。追い詰めると保険が厚くなる |
いちばん効くのは1行目だ。「なぜできなかったか」と聞けば理由が返り、「どこまで終わっているか」と聞けば事実が返る。同じ場面でも、返ってくるものが変わる。しかも後者は説明の途中でも答えられるので、相手の話を遮らずに済む。
4行目は先出しへの受け方だ。「昨日寝てなくて」に対して「じゃあ無理だね」でも「それ言い訳でしょ」でもなく、量の話に変える。保険を否定すると、次はもっと厚い保険が用意される。否定せず、どこまでできるかだけ決める。
逆にやらないほうがいいのは、理由の真偽をその場で確かめることだ。「先方の返事、いつ来ました?」は正当な質問だが、始めた瞬間に相手は防御に入り、説明はさらに伸びる。確かめる必要があるなら、その場ではなく記録で見たほうが早い。
自分が言い訳をしていると気づいたとき
自分がどちらをやっているかは、一つの問いで分かる。その理由を、うまくいっていたら言っただろうか。
寝不足なのは事実だ。けれど、うまくいっていたら「寝てないんですけどね」とは言わない。言わないなら、それは状況の説明ではなく保険だ。ここだけで見分けがつく。
直し方は、たぶん一つでいい。先に言わないこと。同じ内容でも、終わったあとに言えば報告になり、始まる前に言えば保険になる。言いたくなったら、終わってから言えばいい。それだけで、力を出し切らない理由が一つ減る。
最後にひとつ。体調が本当に悪い、家庭の事情がある、ハラスメントを受けている——こうしたものは言い訳ではなく、先に言うべき事実だ。見分ける基準は同じでいい。うまくいっていても伝える必要があるかどうか。必要があるなら、それは保険ではないので、記録して上司や相談窓口に持っていったほうが早い。
自分の勤勉性スコアを知ろう
誠実性と感受性の2本を測ると、自分に出るのが「やれない側」なのか「気に病む側」なのかが見えます。両方が同時に出る人は、言い訳が増えやすい配置にいます。責める代わりに、先に言わないという一手を選べるようになります。
問題数は10問・30問・120問から選べます。まずは軽くでも大丈夫です。