「要領が悪い」と言われたことはないだろうか
職場の会議で、誰かが質問を投げた。
隣の同僚はすぐに答えた。明快に、迷いなく。
あなたは一瞬、止まった。「この言い方だとAさんが傷つくかも。でもBさんはさっき別の意見を言っていた。場の空気的には…」
気づいたら、話題は次に進んでいた。
「要領が悪い」「はっきりしない」と言われたことがあるかもしれない。
あるいは自分でも、うすうす思っているかもしれない。
私って、頭の回転が遅いのかな、と。
でも本当にそうだろうか。
脳の容量は、有限だ
脳の容量には、限りがある。
スマートフォンでも、たくさんのアプリを同時に開くと動作が重くなる。処理能力が分散されるからだ。
あなたの脳も、同じことが起きている。
「この人は今どんな気持ちだろう」
「さっきの発言で傷つけてしまったかな」
「この場の空気はどっちに向かっている?」
「このアイデア、Aさんの立場では受け入れにくいはずだ」
「メンバーの状況を考えると、これは本当に実現できるのか」
これらを常時、同時に処理している。
意識してやっているわけじゃない。呼吸と同じで、止めようとしても止められない。
心理学ではこれを認知資源(cognitive resources)と呼ぶ。人間が一度に使える思考の容量のことだ。
そしてこの容量は誰でも有限で、何かに使えば他のことに使えなくなる。
あなたの容量の大半は、人の感情と、人間関係ごしに見た現実を処理することに使われている。
だから「即答」や「即行動」に回せる容量が、単純に少ない。
「1+1は?」で何が起きているか
「1+1は?」と聞かれたとする。
答えは2だ。誰でも知っている。
ある人はすぐに「2」と答える。
あなたはこう考える。
「この人は、2という答えを求めているのか。それとも3と言ってほしいのかもしれない。さっきの会話の流れを考えると…」
その数秒の間に、相手はもう次の話題に移っている。
外から見れば、あなたは「フリーズしている人」だ。考えが深すぎて、体が動き出せない。
外から見れば、あなたは「1+1もわからない人」に見える。
でも実際にあなたの頭の中で起きていたのは、1+1の計算ではなく、その場の人間関係全体の計算だった。
処理している情報量は、圧倒的にあなたの方が多い。
ただそれが、「遅い」という形でしか表に出てこない。
これは、時代のせいでもある
これは、時代のせいでもある。
情報があふれ、答えはすでにどこかにある。「考える」より「動く」方が結果が出やすい世の中になった。その中で評価されるのは、余計なことを考えずに動ける人だ。
あなたが感じている「自分はバカかもしれない」という感覚は、そういう時代の空気を浴び続けた結果かもしれない。
でも考えてほしい。
電卓は、人間より速く計算できる。でも誰も電卓を「頭がいい」とは呼ばない。
電卓にできないことを、あなたはやっている
では、あなたは何をしているのか。
会議で止まっていたあの数秒、あなたの頭の中では電卓には絶対にできないことが起きていた。
「この発言がAさんにどう届くか」
「チーム全体の空気がどう変わるか」
「メンバーの状況を考えたとき、これは本当に実現できるのか」
これは計算ではない。人間にしかできない処理だ。
AIでさえ、まだ完全には再現できていない。感情を読み、関係性を読み、その場にいる全員のことを同時に考える。あなたはそれを、無意識に、毎日やっている。
使っている容量の場所が、違うだけだ。
もらうアドバイスが、なぜかズレている理由
そしてよく、こんなアドバイスをもらう。「もっとちゃんと考えてから動け」と。
でもそれは、完全に逆だ。
あなたはすでに考えすぎている。必要なのは「もっと考えること」ではなく、「考えるのをやめること」だ。
アドバイスをくれた人は悪意があるわけじゃない。ただ自分の基準で話している。「自分は考えが足りないから失敗した」という経験から言っている。
でもあなたの問題は、考えが足りないことじゃない。
考える方向が、違うだけだ。
情報量を減らすことが、出口になる
問題は、それが誰にも見えないことだ。
あなたの頭の中で起きている処理は、外からは「止まっている人」にしか見えない。評価されないどころか、「要領が悪い」と言われる。そして気づけば、自分でもそれを信じるようになる。
ここで一度、立ち止まって考えてほしい。
あなたが処理している情報量は、本当に必要なものだろうか。
神経症傾向が高い人は、不安から「もしかしたら」を次々と考える。協調性が高い人は、場の空気を追い続けて情報量が膨らんでいく。
でも今の時代、答えはすでにある。自分でゼロから情報を生み出さなくていい。
成功への最短距離かもしれない。
もし今の状態に悩んでいるなら、情報量を減らす練習が助けになる。
悩んでいないなら、その処理能力を強みとして活かす道がある。
そして「これが自分の特徴なんだ」と腑に落ちるだけで、少し楽になることもある。
まず、自分がどのくらいの協調性・神経症傾向を持っているか。数値で知ることが、最初の一歩になる。