「全部自分でやってしまう人」の行動パターン
職場にいないだろうか。部下がいるのに、全部自分でやってしまう人。
どういう場面か。部下が作った資料を一度受け取って、そのまま出さずに赤ペンで直し始める。直すうちに「やっぱり自分で作り直した方が早い」になって、結局ゼロから作り直す。部下は「任された」と思っていたのに、気づけば上司の机に資料が戻っている。
もっと細かい場面でも同じだ。任せた仕事の進捗を、事細かに聞いてくる。「そこはこうじゃなくて」「途中で確認してよね」。口を出さずにいられない。残業時間を見ると、部下より自分の方が長い。仕事を抱え込みすぎて、しんどいのは明らかなのに、手放せない。
面白いのが、この人は「任せたくない」わけではない、という点だ。口では「もっと任せたい」「人を育てたい」と言う。本心からそう思っていることも多い。なのに、いざ任せようとすると、手が勝手に動いてしまう。
ここで「責任感が強すぎる」「真面目すぎる」と片づけたくなる。気持ちも分かる。でもそれだと、この人のしんどさも、周りが育たない理由も見えないままだ。もう少し掘ってみる。
なぜ手放せないのか——誠実性の高さ
ビッグファイブでこの人を見ると、最初に目につくのが誠実性の高さだ。
誠実性が高い人には、頭の中に「正しいやり方」がある。順番、精度、期限。自分が納得できる基準が明確で、それを下回る仕事を出すことに、強い違和感を覚える。だから部下のやり方が「違う」と、許せない。結果が同じでも、過程が違うと落ち着かない。
少し言い換えると分かりやすい。誠実性が高いと、「丁寧に」「計画的に」が自分の標準になる。この標準を満たさないものを「出す」ことが、自分の仕事へのけじめのように感じられるのだ。赤ペンが止まらないのは、直す意志があるというより、出せない感覚が先に立っている。
ただ、誠実性が高いだけでは、ここまで「任せない」にはならない。実は、もう一つ重要な因子が重なっている。
もう一つの鍵:神経症傾向の高さ
それが神経症傾向の高さだ。
神経症傾向が高いと、「任せたらどうなるか」を強く想像する。失敗したらどうしよう。自分の責任で怒られるのではないか。お客様に迷惑がかかるのではないか。この「もしも」が、頭の中で膨らむ。
任せるという行動は、本来リスクを伴う。相手がどうするか、完全にはコントロールできない。神経症傾向が低い人にとって、この不確実性は「まあ何とかなる」で済む。しかし神経症傾向が高いと、この不確実性が耐え難い。だから手元に置いて、自分の目で確かめたい。
誠実性が高い=「基準が高く、それを下回る仕事が出せない」。神経症傾向が高い=「任せたら失敗する不安が大きい」。この2つが揃ったとき、本人の内側では「任せること」が、常にリスクに見える。
ここが一番誤解されやすい点だ。周りからは「人を信頼していない」「コントロール欲が強い」に見える。でも本人の内側では「任せて大事になったら申し訳ない」「結局、自分でやるしかない」。人を見下しているわけでも、権力を握りたいわけでもない。主観的には、責任を全うしようとしているのだ。このギャップを知っているかどうかで、関わり方は変わる。
「任せない」が強化される構造
ここで一つ、やっかいな要素を足す。このタイプ、「結果、自分でやった方がうまくいった」という経験を積み重ねていることだ。
誠実性が高く仕事ができるから、たいてい自分でやった方が速いし、確実だ。実際にそうなる。すると「やっぱり自分でやるしかない」が、少しずつ強化されていく。任せて失敗した経験よりも、自分でやって成功した経験の方が、圧倒的に多い。
その間、部下は任されないままだ。任されないと育たない。育たないから、余計に任せられない。このループが回るうちに、「任せられる人」が職場から少しずつ消えていく。
だから本人も苦しい。任せたい、楽になりたい、人の分まで抱えたくない。そう思いながら、手が動いてしまう。意志が弱いわけでも、人望が足りないわけでもない。構造の問題なのだ。
根っこの構造:信頼ではなく、不安と基準の問題
ここまでを整理する。「全部自分でやってしまう人」には3つの層がある。
一番外側には「真面目」「責任感が強い」が見えている。その下に「全部自分でやる」「口出しが止まらない」という行動がある。さらにその下に、誠実性の高さと神経症傾向の高さがある。
「責任感が強い」は外見であって、原因ではない。原因は、任せることへの不安と、手放せない高基準だ。
だから「もっと任せなさい」「人を育てなさい」というアドバイスは、構造的に届かない。意志の問題ではなく、不安と基準の問題だからだ。不安が解けないまま「任せろ」と言われても、本人には「大事になっても知らないぞ」と聞こえるだけだ。
関わるとき/自分が当てはまるとき
では、この人と関わるとき、どうすればいいか。
部下として関わるなら、効くのは「見える化」だ。この人が不安なのは、「任せたらどうなるか分からない」という不確実性だ。だから、進捗をこまめに報告する。途中経過を逐一見せる。「ここはこう進めます、ここで一度確認します」と、先を見せておく。不安の種を一つずつ取り除いていくと、不思議と口出しが減る。「もっと任せて」と要求するより、「任せても大丈夫」を感じてもらう方が効く。
もし自分がこの傾向に当てはまるなら。誠実性が高く神経症傾向が高いのは、本来強みだ。仕事はできるし、慎重だし、ミスが少ない。ただ、人を育てるフェーズに入ると死角ができる。自分の基準を他人にまで求めてしまうのだ。だから「不完全でも許す」体験を少しずつ積む必要がある。小さな仕事から任せて、少し粗くても結果が出るのを見る。「自分でやる方が早い」が「育てばもっと早い」に変わるのは、そこからだ。
ビッグファイブの診断で、自分の誠実性と神経症傾向のスコアを見ると、この辺りの傾向が数値で腑に落ちることがある。