「明るい人が長生きする」は本当か
「楽観的な人の方が長生きする」。なんとなく信じられている。笑顔でいる人、くよくよしない人は健康に良さそうに見える。ストレスに強そうだし、免疫力も高そうだ。ところが、心理学者のHoward FriedmanとLeslie Martinが引き継いだ大規模な追跡調査は、この素朴な信頼を裏切る結果を出している。
もとになったのは、1921年に心理学者ルイス・ターマンが始めた調査だ。「優秀な子どもたち」千五百人以上を集め、その後の人生をずっと追いかけた。Friedmanたちはこのデータを引き継ぎ、八十数年後に死亡記録と照合して、「どんな子が、長生きする大人になったか」を調べた。このプロジェクトは『The Longevity Project(寿命の研究)』としてまとめられている。
そこで浮かび上がったのは、直感に反する事実だった。子どもの頃に「明るく、楽観的だ」と評価された人たちが、かえって短命だったのである。明るさそのものが悪いわけではない。だが明るすぎる子どもは、リスクを取りやすく、健康に気を配らない傾向があった。「前向きなら大丈夫」という感覚が、ときに警戒心まで緩めてしまう。明るい人が長生きするという話は、すくなくともこのデータの前では成り立たない。
では、何が寿命を伸ばすのか。研究が一貫して指差すのは、まったく別の性質だ。
長生きした人に一番共通するのは「まじめさ」
いくつもの研究を束ねた分析でも、ターマンの追跡データでも、寿命を最も強く予測した性格因子は同じだった。ビッグファイブの誠実性(Conscientiousness)——まじめさ、計画性、几帳面さの高さである。
Margaret KernとFriedmanが約二十の研究をまとめたレビューでは、誠実性が高い人ほど死亡率が低く、長生きする傾向が安定して確認された。ターマンのデータでも、子どもの頃に「責任感がある」「約束を守る」と評価された人ほど、長く生きている。才能でも、明るさでもなく、地味なまじめさが、寿命を一番よく予測した。
なぜか。誠実性が高い人は、体にいいことを積み重ねる。運動、食事、睡眠、禁煙、節酒——BoggとRobertsが百以上の研究を束ねた分析では、誠実性は健康に関わる行動のほぼ全般と結びついていた。魔法の遺伝子でも、特別な健康法でもない。毎日の選択を、少しだけ丁寧に積み重ねられる性質が、何十年かけて効いてくる。
研究で指摘される、長寿と関連する因子
誠実性(C)が高い:健康行動を積み重ねる。寿命の最強予測因子
神経症傾向(N)が低い:慢性的な不安が少なく、体が常に警戒状態になりにくい
明るさ・楽観(だけ):研究では必ずしも長寿と結びつかない。警戒心を緩める面もある
少しつまらない話に聞こえるかもしれない。「まじめで几帳面な人が長生きする」では、夢がない。だが研究は、派手な性質でなく、地味な性質が寿命を握っていると、繰り返し告げている。
不安が少ない——もう一つの、体を守る性質
誠実性と並んで、もう一つ長寿に効くのが、神経症傾向の低さだ。不安や落ち込み、感情的な揺れが少ない性質。ビッグファイブでは感受性(N)とも呼ばれる。
不安が体に悪いというのは、感覚的にわかる。胃が痛くなる、眠れなくなる、肩がこる。でも、その仕組みはけっこう物理的だ。強い不安が続くと、体はずっと「危険」の合図を出し続ける。交感神経が優位になり、ストレスホルモンが止まらない。心拍が上がり、血圧が上がる。これが一時なら問題ない。だが何年も何十年も続くと、血管も心臓も、じわじわ削られていく。
睡眠にも出る。Hintsanenらの研究で、神経症傾向の高さは睡眠の障害を一番強く予測する因子だった。逆に誠実性が高いと、睡眠のリズムが整いやすい。寝られない日が続くと、免疫力も回復も落ちる。不安が少なく、よく眠れる——それだけで、体はずいぶん楽をする。
長寿につながりやすい性質の、おおよその目安
計画を立てて、それを守るのが苦にならない → 誠実性が高め
不安の波が大きくなく、寝つきがいい → 神経症傾向が低め
「なんとかなる」で健康行動を後回しにしがち → 要注意(楽観の罠)
ここで一つ、誤解をほどいておきたい。神経症傾向が低いことが「いい」、高いことが「悪い」という話ではない。感受性の高さには、危険を察知する、他人の気持ちに気づく、芸術や自然の細部を味わう、といった強みもある。ただ、長寿という一つの指標に限って言えば、不安の波が小さいほうが、体への負荷は小さい。強みか弱みかは、何を基準にするかで変わる。
「明るさ」が裏目に出るとき
「明るい人が短命だった」と聞くと、居心地が悪くなるかもしれない。「前向きでいてはいけないのか」と。そうではない。明るさそのものは、決して敵じゃない。
問題なのは、明るさが「警戒心の緩み」とセットになるときだ。「なんとかなる」「自分は大丈夫」という感覚が強すぎると、人間はリスクを軽く見る。健康診断を先延ばしにする。無理な働き方を続ける。深酒や食べすぎを「まあいいか」で流す。ターマンの研究で明るい子どもが短命だったのは、おそらくこの「まあいいか」が何十年も積み重なった結果だ。明るさが寿命を縮めたのではなく、明るさが警戒心を薄くして、結果として体を削った。
健康的な前向きさと、無責任な楽観は違う。前者は「最悪のことも想定して、それでも動く」。後者は「最悪は自分には来ない」。長生きする人の誠実性には、この見分けが備わっている。楽観的であっていい。ただし、それは「歯医者に行くのを先延ばしにしない」楽観であってほしい。
皮肉な話だが、不安を少し持っていることには、長寿の面では見返りがある。「これ、大丈夫かな」と気にする性質は、健康診断を受けたり、変化を早めに拾ったりする方向に働く。不安ゼロの楽観より、ほどよい心配のほうが、体を長く保つ。人間、少しくらい心配していたほうが、結果的に長生きできるらしい。
性格は変えられなくても、習慣は変えられる
ここまで読んで、「自分は誠実性が低いし、不安も強い。もうダメか」と思ったなら、ちょっと待ってほしい。
性格は、大人になってから急には変わらない。それは事実だ。だが、長寿に効くのは「性格そのもの」ではなく、「性格が生み出す日々の行動」だ。であれば、行動のほうを少しずつ変えればいい。性格を変える必要はない。
誠実性が低めなら、意志に頼らず仕組みを作る。薬は決まった時間に、健康診断は毎年同じ月に、寝る時間はアラームで逆算する。「まじめにやろう」と気合いを入れるのではなく、「やらざるを得ない状況」を外側に置く。これこそ、誠実性が高い人が無意識にやっていることだ。まねしていい。
不安が強いなら、体を休ませる時間を仕組み化する。深呼吸、軽い運動、寝る前のスマホを置く時間。不安そのものを消そうとしなくていい。体への負荷を、少しだけ下げる行動を積み重ねる。完璧にやる必要はない。三日続けば、それで十分だ。
一つだけ、正直に書いておく。寿命は、性格だけで決まるわけではない。遺伝も、環境も、運も、大きく関わる。ここで書いたのは「性格が長寿とどう関係するか」という研究の傾向であって、医療的な診断ではない。体に気になる症状がある、長く続く不調があるなら、自己判断せず医療を頼ってほしい。「性格を直せば長生きできる」という話では決してない。ただ、なかでも性格は、自分で少しだけ動かせる、数少ない要素ではある。
明るさに頼るより、まじめさに頼るほうが、長寿の研究は味方をしてくれる。自分のビッグファイブを一度見てみてほしい。誠実性はどのくらいか、神経症傾向はどのくらいか。数字が出れば、「じゃあ、どの習慣を仕組み化しようか」という具体的な話になる。性格の話は、そこで初めて、自分の生活に届く。