「怒らない人」と言われる、よくある場面
大事な書類にコーヒーをこぼされても、「大丈夫ですよ」と笑っている。約束の時間に大きく遅れられても、責める言葉を口にしない。理不尽なことを言われても、声を荒らげない。こうした人は、周りから「怒らない人」と呼ばれます。
怒らない人の特徴としてよく挙がるのは、いつも穏やかで表情が変わりにくい、人を責めない、不満をあまり口にしないといったものです。一緒にいて安心できる一方で、「本当は何を考えているのか分からない」と感じさせることもあります。
怒りやすい側の心理はすぐ怒る・感情的になりやすい性格の科学で、頼まれると断れない場合は断れない性格を直したい人へで取り上げました。この記事では、怒らない人は「怒らない」のか、それとも「怒れない」のかに注目して、その心の中を考えます。
怒りを上手に収めている人と、怒りを外に出せずにためている人だ。
一つの印象で、性格は決まりません。ビッグファイブ診断では、複数の質問への回答から、人との関わり方や気持ちの動き方を振り返れます。
自分の五つの性格を測る(無料)協調性が高い人は、怒りの「きっかけ」を切り替えている
Meierらは、攻撃に関わる言葉や絵をさりげなく見せたあとで、人がどう行動するかを調べました。すると、攻撃的な行動が増えたのは協調性が低い人だけで、協調性が高い人には、そうした変化が見られませんでした。[1]
二つ目の研究では、協調性の中でも人への温かさが強い人ほど、攻撃に関わる言葉を見たあとに、「助ける」「分かち合う」といった人を思いやる考えが自然と浮かびやすいことが示されました。研究者たちは、協調性の高い人は、怒りにつながるきっかけを、思いやりの考えへすばやく切り替えているのではないかと考えています。
つまり、本当に怒らない人の多くは、怒りを無理に押さえつけているのではありません。怒りが大きくなる前に、心の中で受け取り方が変わっているのです。協調性が高い人の特徴も、あわせて参考にしてください。
「捉え直す」人と「抑え込む」人
1. 捉え直す:「相手も急いでいたのかもしれない」と、出来事の受け取り方そのものを変える。
2. 抑え込む:怒りは感じているのに、表情や言葉に出さないように我慢する。
GrossとJohnは、気持ちの整え方に関する五つの研究を行い、この二つのやり方を日常的にどのくらい使うかを比べました。その結果、捉え直す人は、前向きな気持ちを多く感じ、人間関係もうまくいきやすい傾向がありました。一方で、抑え込む人は、前向きな気持ちが少なく、嫌な気持ちはむしろ多く感じていて、人との関係も遠くなりやすいことが分かりました。[2]
外から見ると、どちらも「怒らない人」です。しかし、捉え直している人は本当に穏やかで、抑え込んでいる人は心の中で怒りを抱えたままです。怒らない人が急に距離を置いたり、ある日突然爆発したりするのは、後者のタイプかもしれません。
嫌な気持ちを見せたほうが、関係は深まる
怒りや不満を見せないほうが、人間関係はうまくいくように思えます。ところが、Grahamらの四つの研究では、反対の結果が出ました。[3]
緊張や不安などの嫌な気持ちを見せた人のほうが、周りから多く助けてもらえました。さらに、嫌な気持ちを表に出すことをいとわない人ほど、友人が多く、大学入学後に新しい関係を作りやすく、いちばん親しい相手とも親密になりやすかったのです。
いつも平気な顔をしている人には、周りも手を差し伸べにくくなります。「困っている」「それはいやだった」と伝えることは、関係を壊すどころか、相手に近づくきっかけを渡すことでもあるのです。
もちろん、相手を責め立てたり、感情をぶつけたりすればよいという意味ではありません。研究で関係を深めていたのは、自分の嫌な気持ちを正直に打ち明けることでした。怒りも、「怒っている」と静かに伝えるだけで、相手に届く大切な情報になります。
怒らない人との付き合い方、自分が怒れない場合
怒らない人と付き合うときは、「何も言わない=気にしていない」と受け取らないことが大切です。迷惑をかけたと思ったら、相手が笑っていても、きちんと謝りましょう。「いやなことがあったら言ってね」と、不満を言いやすい場を作っておくのも効果的です。
優しさに甘えて頼みごとを重ねると、抑え込むタイプの人は少しずつ疲れていきます。優しすぎる人の恋愛で取り上げたように、我慢していることに本人が気づいていない場合もあります。
自分が怒れないと感じる人は、怒りを「相手を責める言葉」ではなく「自分の気持ちの説明」に置き換えて伝えることから始めてみてください。「遅れるなら連絡がほしかった」「その言い方は少し悲しかった」のように、自分を主語にすると、声を荒らげずに気持ちを伝えられます。まずは、小さなことを一つだけ言葉にするところからで十分です。
「怒らない人」と決めつけない
怒らない人も、疲れているとき、大切なものを傷つけられたときには怒ります。いつも穏やかな人の一度の怒りを、「らしくない」と責めないようにしましょう。
怒りや不満を長くため込んで、眠れない、体調がすぐれないといった状態が続くときは、ひとりで抱え込まず、信頼できる人や相談窓口に話してみてください。
怒らない人の穏やかさには、上手に気持ちを切り替える力と、言えずにためている我慢の両方があり得ます。その違いを知っておくと、相手にも自分にも、少し優しく向き合えます。
印象ひとつで、人柄を決めない
ビッグファイブ診断は、協調性や神経症傾向を含む五つの傾向を振り返る道具です。だれかが本当に怒っているかどうかを判定する検査ではありません。
参考にした研究
- Meier BP, Robinson MD, Wilkowski BM(2006)Turning the other cheek: Agreeableness and the regulation of aggression-related primes. Psychological Science, 17(2), 136–142. DOI
- Gross JJ, John OP(2003)Individual differences in two emotion regulation processes: Implications for affect, relationships, and well-being. Journal of Personality and Social Psychology, 85(2), 348–362. DOI
- Graham SM, Huang JY, Clark MS, Helgeson VS(2008)The positives of negative emotions: Willingness to express negative emotions promotes relationships. Personality and Social Psychology Bulletin, 34(3), 394–406. DOI