気になる音があること自体は、多数派である

咀嚼音が苦手だと言うと、「神経質すぎる」と返ってくることがある。ところが、嫌な音が一つもない人のほうが少ない。

Kılıçらは、トルコ・アンカラ市内で無作為に選んだ300世帯、15歳を超える住民541人に、訓練を受けた面接者が各家庭を訪ねて聞き取りを行った。その結果、78.9%が「つらいと感じる音が少なくとも一つある」と答えた。一方で、研究班の基準でミソフォニア(音への耐性が下がった状態)に当てはまったのは12.8%だった。[1]

両者を分けていたのは、感じ方の強さだけではなくである。当てはまった人のつらい音は平均17.6種類、当てはまらなかった人は7.3種類だった。一つ二つの苦手な音は、ごく普通にあるということだ。

この調査はトルコの一都市で行われたもので、日本の数字ではない。それでも、「気になる自分がおかしい」という前提だけは、いったん外して考えられる。

嫌な音が一つあるのは、珍しくない。
違いが出るのは、その数と、暮らしへの支障のほうだ。

音量ではなく、特定の音への耐性が下がっている

この現象は長く呼び名も定義もばらばらだった。そこで2020年から2021年にかけて、聴覚・精神医学・心理学など立場の異なる専門家が集まり、四回の投票と修正を重ねて共通の定義をまとめている。八割以上が賛成した文だけを残す方式だ。[2]

そこで採られた枠組みは、「特定の音、またはその音に結びついた刺激に対して、耐えられる範囲が狭くなっている状態」という見方である。音全般がうるさい、という話ではない。

ここが、まわりから分かりにくいところだ。工事の音は平気なのに、隣の人がガムを噛む音だけは無理、ということが起こる。音の大きさの順に苦手になるわけではないので、「そのくらいの音で」という比べ方が噛み合わない。

また、音そのものだけでなく、それに結びついた合図でも反応が起きうる、という点も定義に含まれている。相手が袋に手を伸ばした時点で身構える、という経験があるなら、それは気のせいとは限らない。

「慣れれば平気になる」と我慢を続ける作戦が空振りしやすいのも、ここが理由になりうる。耐性が下がっている相手は音量ではないので、浴び続けても目盛りは上がっていかない。

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感受性が高いから、で終わらせない

では、性格のせいなのか。この点を調べた研究がある。

Cassiello-Robbinsらは成人49人に、感情の扱いにくさを測る尺度、ミソフォニアの質問紙、そしてビッグファイブの神経症傾向の下位尺度に回答してもらった。神経症傾向も感情調整の難しさも、症状の強さと正の相関があった。ただし詳しく見ると、両者のあいだを仲立ちしていたのは「強い不快の最中に、衝動的な行動を抑えにくいこと」だった。[3]

つまり、感じやすさそのものより、感じたあとに何をしてしまうかのほうが症状の強さに近かった、という結果である。席を立つ、にらむ、強い言葉が出る——そこが苦しさを大きくしている、という読み方ができる。

ただし49人という小さな予備的研究で、一時点の回答をもとにした分析である。原因と結果の向きを決められるものではない。「感受性が高い人はミソフォニアになる」とも、「性格を直せば消える」とも言えない。

それでも、扱いどころが一つ見える。感じ方を無理に薄めようとするより、強く反応が出た数十秒のあいだ、何をするかをあらかじめ決めておくほうが手を付けやすい。

「気にするほうが悪い」も「立てる音が悪い」も決着しない

この話は、どちらかを責める形になりやすい。気にする側は神経質だと言われ、音を立てる側はマナーが悪いと言われる。どちらの言い分にも根拠があるように見えて、話は進まない。

先ほどの調査では、当てはまった人のうち相談機関に連絡した人は5.8%にとどまっていた。[1]つらさが表に出にくい、という点は数字にも現れている。黙って耐えているうちに、相手への評価そのものが下がっていくことも起こる。

ここで大事なのは、音が不快なことと、その人が嫌いなことを、別々に置いておくことだ。混ざると、席替えや小さな工夫で済む話が、人間関係の問題として扱われてしまう。

逆に、音を立てている側も、責められていると受け取ると防御に回る。「あなたが悪い」ではなく「この音が自分には強く入る」という言い方に変えるだけで、相談できる形に近づく。

なお、日常生活や仕事、学業が続けられないほど支障が出ているなら、我慢の工夫の段階ではない。耳鼻科や心療内科など、相談できる窓口がある。

音を消すより、逃げ道と言い方を先に決めておく

その場になってから対処を考えると、反応のほうが先に出る。決めておけるものを、先に決めておきたい。

座る場所:正面より斜め、壁側より通路側。無理なく離れられる席を先に取る。

逃げ道:席を立つ理由(飲み物・電話)を一つ用意しておく。黙って耐える以外の選択肢を持つ。

伝え方:「特定の音が自分には強く入るので、席を替わってもいいですか」。相手の行儀ではなく、自分の側の事情として言う。

音を完全に遮る道具に頼りきる形は、場面によっては使えない。会議中や食事中に耳をふさぐわけにいかないこともある。だから、道具は選択肢の一つとして持ちつつ、席と逃げ道を組み合わせておくほうが現実的だ。

これらは、ここで紹介した研究で効果が検証された手順ではない。定義と相関から考えた、実用上の提案である。合わなければ変えてよい。

家族のように離れられない相手なら、食事の時間を少しずらす、テレビや音楽を先に鳴らしておくなど、場面のほうを動かす手もある。相手に直させる話にすると長期戦になりやすい。

気になる音があることを、自分の性格の欠点として引き受けなくてよい。数と支障を見て、変えられるところから動かしていく。

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参考にした研究

  • Kılıç C, Öz G, Avanoğlu KB, Aksoy S(2021)The prevalence and characteristics of misophonia in Ankara, Turkey: population-based study. BJPsych Open, 7(5), e144. PubMed
  • Swedo SE, Baguley DM, Denys D, ほか(2022)Consensus Definition of Misophonia: A Delphi Study. Frontiers in Neuroscience, 16, 841816. PubMed
  • Cassiello-Robbins C, Anand D, McMahon K, ほか(2020)The Mediating Role of Emotion Regulation Within the Relationship Between Neuroticism and Misophonia: A Preliminary Investigation. Frontiers in Psychiatry, 11, 847. PubMed