歩く速さは「せっかち」の測定ではない
「せっかち」は、待つことへのいらだちや、物事を早く終えたい気持ちを表す言葉だ。一方、歩く速さは体がどれくらいの速度で移動しているかという動作の指標である。この二つを、最初から同じものとして扱うと読み違える。
たとえば、一人で駅へ向かうときには速く歩くが、店で順番を待つときは平気な人もいる。逆に、歩くのはゆっくりでも、返信を待つのは苦手という人もいるだろう。これは人物像を整理するための例で、歩く速さから待つのが苦手かどうかを判定できるという意味ではない。
速さを見て気になるのが「せわしなさ」なのか、「一緒に歩きにくいこと」なのかも違う。前者ならその人の行動全体を、後者なら二人のペースの調整を見たほうが、困りごとに近づける。
いつもの速さと、その場での合わせ方。
性格との関連はある。ただし小さい
Stephanらの研究は、主に中高年を含む五つの調査、計15,000人以上を用いて、先に測った性格と後の歩行速度を調べた。全体として、外向性・誠実性・開放性が高く、感受性〈神経症傾向〉が低いほど、後に測った歩行速度が速いという関連が見られた。[1]
ただし著者らは、その関連の大きさは小さく、観察研究なので因果関係は確定できないと明記している。性格だけで速さが決まるわけではなく、身体や生活環境など、さまざまな要因が重なる。研究の対象も、若者が駅で急ぎ足になる場面だけを集めたものではない。
ここから「足の速い人は仕事ができる」「遅い人は誠実性が低い」と逆算することはできない。集団の平均的な関連は、目の前の一人を採点する道具ではないからだ。相手の歩く速さを眺めるより、自分の性格を質問紙で確かめるほうが、知りたいことに合っている。
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歩調は、一人の性格だけで完結しない。22人を対象に、一人・恋人・友人と歩く条件を比べた研究では、男性は女性の恋人と歩くとき、自分一人のときより速度を落としていた。少人数の実験ではあるが、「その人の速さ」は一つに固定されていないことを示す例になる。[2]
2021年の別の研究では、25〜79歳の141人について、一人で歩く、パートナーと歩く、手をつないで歩く条件を比較した。二人で歩くと双方が速度を落とし、手をつなぐとさらに遅くなった。道に障害物があるかどうかでも速度は変わった。[3]
だからといって、「遅く合わせてくれる人ほど愛情が深い」という判定には使えない。これらは歩行条件による速度の変化を測った研究で、個人の愛情を測る検査ではない。言えるのは、歩くペースには、誰と、どんな道を、どう歩くかも関わるということだ。
「速く歩く」と「置いていく」を分ける
一緒に歩くときの困りごとは、秒速何メートルかより「会話が続かない」「何度も小走りになる」といった具体的な場面に出る。ここでは性格の名前を付ける前に、何が起きているかを言葉にしてみたい。
「せっかちだね」と言う代わりに、「この速さだと私は小走りになる」「話しながら歩けるくらいに落としてほしい」と伝える。これは研究で効果を保証された方法ではなく、速さの違いを人格の評価にしないための実用上の提案だ。
速い側も、相手が無言でついてきていることを「ちょうどよい速さだ」と受け取らないほうがよい。「このくらいで大丈夫?」と一度確かめれば、好みや負担の違いを話題にできる。靴や荷物、その日の疲れについて尋ねてもいい。
観察するなら、速さそのものより調整のやり取り。
ただし、一度合わせられなかっただけで「思いやりがない」と決めない。相手に希望が伝わっていたか、急ぐ事情があったかも、同じ場面の一部である。
歩幅より、歩く目的を合わせる
片方は「早く目的地に着く時間」、もう片方は「会話を楽しむ時間」だと思っていたら、ちょうどよい速さは一致しにくい。歩幅を細かく指示する前に、今日は何を優先するかを合わせる、という考え方もある。
散歩なら、景色を見たり話したりできるペースにする。時間が決まった移動なら、相手が無理をしない所要時間を見込んで出発する。急ぐ事情があるなら、黙って先へ進むより先に伝える。こうした工夫は、速い人が性格を変えなくても、二人で試せる。
自分の歩き方が気になる人も、「もっとゆっくり歩ける性格にならなくては」と考える必要はない。一人のときに自然なペースがあることと、誰かと歩くときに相談することは両立する。速いことを長所と決めつける必要も、欠点として直す必要もない。
歩く速さは、その人の一部を映すことはあっても、その人の全部を説明しない。「速い人はこういう人」と答えを急ぐより、目の前の相手が無理なく並んで歩けているかを確かめたい。
いつもの行動を、五つの性格から見直す
ビッグファイブ診断では、外向性・誠実性・開放性・協調性・感受性の傾向を確認できます。歩行速度や健康状態を測る検査ではありません。自分が活動や人との調整をどう受け止めやすいか、考えるきっかけとして使ってください。
参考にした研究
- Stephan Y, Sutin AR, Bovier-Lapierre G, Terracciano A(2018)Personality and Walking Speed Across Adulthood: Prospective Evidence From Five Samples. Social Psychological and Personality Science, 9(7), 773–780. 論文
- Wagnild J, Wall-Scheffler CM(2013)Energetic Consequences of Human Sociality: Walking Speed Choices among Friendly Dyads. PLOS ONE, 8(10), e76576. PubMed
- Cho H, Forster A, Christ SL, Franks MM, Richards EA, Rietdyk S(2021)Changes to gait speed when romantic partners walk together: Effect of age and obstructed pathway. Gait & Posture, 85, 285–289. PubMed