「捨てられない」には、いくつかの理由が混ざっている
着なくなった服、昔の手紙、いつか使うかもしれない紙袋や箱。片付けようと手に取ったのに、結局また棚に戻してしまう。家族から「どうせ使わないでしょう」と言われても、なかなか手放せない人がいます。
物を捨てられない理由は一つではありません。まだ使えるのにもったいない、いつか要るかもしれない、思い出が詰まっている、どれを残すか決めるのが疲れる。こうした気持ちが、一つの物の上に重なっていることがよくあります。
片付けの仕組みづくりが苦手で物が散らかる話は、片付けられない人の性格で取り上げました。この記事では、その手前にある「手に取ったのに手放せない」気持ちのほうを見ていきます。
ここで挙げる見方は、日常の場面を整理するためのものです。誰かの性格や心の状態を判定するチェック表ではありません。
損、不安、思い出、決める疲れを分けて見る。
「片付けられない人」とまとめて責めるより、その物の何が手放しにくくさせているのかに目を向けると、話が進みやすくなります。
持ち物の量で、性格は決まりません。ビッグファイブ診断では、複数の質問への回答から、普段の考え方や物事の進め方を振り返れます。
自分の五つの性格を測る(無料)自分の物になると、価値が高く見える
経済学者のKahnemanらは、実験の参加者の半分にマグカップを無作為に配り、カップを持っている人と持っていない人の間で売り買いをしてもらいました。すると、持っている人が「この値段なら手放す」と考える額は、持っていない人が「この値段なら買う」と考える額を大きく上回り、取引は理論上の予想よりずっと少なくなりました。[1]
このように、一度自分の物になると、同じ物でも手放すときの価値を高く見積もりやすくなる傾向は「保有効果」と呼ばれています。ついさっきもらったばかりのカップでも起きるので、物への思い入れが特別強い人だけの話ではありません。
「高かったのに」「まだ使えるのに」と感じるのは、多くの人に起こる自然な反応です。捨てられない自分を、意志が弱いと責める必要はありません。
ただしこの実験は、マグカップなどを使った売り買いの研究です。家の中の物を捨てられるかどうかを直接調べたものではない点には注意が必要です。
思い出の品は、自分の一部を手放す感じがする
手紙や子どもの頃の作品、旅先で買った物などは、使うかどうかとは別の理由で手放しにくくなります。物そのものより、そこに結びついた思い出や「あの頃の自分」を失うように感じるからです。
Winterichらは、不要品の寄付を呼びかける場で、思い出のある物を寄付する前に写真を撮るよう勧めました。すると、勧めなかった場合より寄付が増えました。続く五つの実験から、写真で思い出を残せると、手放すときに「自分の一部がなくなる」感じが和らぐためだと説明しています。[2]
この研究は、寄付という場面での結果です。すべての思い出の品に当てはまるわけではありませんが、「物を残す」と「思い出を残す」を分けて考えるヒントになります。
暮らしに困るほどなら、別の問題のこともある
心理学では、物を捨てられず、住まいが使えないほど物が積み重なる状態を「ため込み症」として研究してきました。FrostとHartlは、その背景として、何を残すかを決めることの難しさ、物への強い愛着、捨てる場面を避けること、「いつか必ず要る」「無駄にしてはいけない」といった物についての思い込みを挙げ、仮の説明モデルとして示しています。[3]
ここで大切なのは、日常の「ちょっと捨てられない」と、この研究が扱う状態は同じではないということです。多くの人の捨てられなさは、片付けのやり方や時間の取り方で十分に変えられます。
一方で、部屋や通路が物でふさがって生活に支障が出ている、捨てようとすると強い苦痛があって手がつけられないといった場合は、性格や努力の問題として抱え込まず、医療機関や専門の相談窓口に相談してください。
自分が手放したいとき、家族の物が気になるとき
自分で減らしたいとき:「いる・いらない」の二択にせず、「迷う箱」を一つ作る。日付を書いて半年ほど置き、その間に一度も開けなければ手放す、と先に決めておく。
思い出の品は:写真に撮ってから手放す。全部ではなく、一番気に入っている一つだけを残すのも方法。
家族の物が気になるとき:本人のいないところで捨てない。「どれも要らないでしょう」ではなく、「この棚に入る分だけにしよう」と量の約束をする。
決めることそのものに疲れてしまう人は、一度にたくさん片付けようとしないのがコツです。引き出し一つ、十五分だけなど、終わりを小さく区切ると判断の負担が減ります。
家族の物を勝手に処分すると、物以上に信頼を失いやすくなります。何を残すかを決めるのは持ち主本人だ、という前提を守るほうが、結果的に早く片付くことも多いものです。
捨てられなさを、性格の答えにしない
「物を捨てられない人は執着が強い」「優柔不断だ」と言われることもありますが、日常の捨てられなさと性格の特徴を直接結びつけた確かな研究は、今回調べた範囲では見当たりませんでした。
同じ人でも、服はすぐ手放せるのに本は捨てられない、ということはよくあります。捨てられなさは、その人の全体ではなく、その物に何を重ねているかを映していることが多いのです。
手放せない物には、損したくない気持ちや思い出が詰まっています。理由を分けて見ると、責めずに減らす方法が選びやすくなります。
持ち物の量で、人柄を決めない
ビッグファイブ診断は、誠実性や神経症傾向(情緒の揺れやすさ)を含む五つの傾向を振り返る道具です。物を捨てられない理由や、相手の気持ちを判定する検査ではありません。
参考にした研究
- Kahneman D, Knetsch JL, Thaler RH(1990)Experimental tests of the endowment effect and the Coase theorem. Journal of Political Economy, 98(6), 1325–1348. DOI
- Winterich KP, Reczek RW, Irwin JR(2017)Keeping the memory but not the possession: Memory preservation mitigates identity loss from product disposition. Journal of Marketing, 81(5), 104–120. DOI
- Frost RO, Hartl TL(1996)A cognitive-behavioral model of compulsive hoarding. Behaviour Research and Therapy, 34(4), 341–350. DOI