撮ると、むしろよく見ることがある
写真を撮る人は、目の前の出来事から離れているように見える。しかしDiehlらの研究では、撮影によって体験の楽しさが高まる場合が示された。撮るものを探すことで、体験へ注意を向けやすくなるという説明である。[1]
花の色、料理の盛り付け、窓から入る光。「何を残したいか」と考えると、ぼんやり眺めていたものの細部に気づくことがある。これは撮影の回数が多いほどよいという話ではない。撮影が目の前の体験への関わりを増やすかどうかが分かれ目だ。
同じ研究でも、撮影が体験の邪魔になる場合などは、楽しさが増すとは限らなかった。機材の操作に追われる、撮り直しばかりで会話が止まる。そうなれば、撮るために見るという働きが、撮る作業に集中する働きへ変わってしまう。
見るきっかけにも、見る邪魔にもなる。
楽しいことと、覚えていることは違う
Henkelの美術館での実験では、展示物を全体として撮影した条件で、見るだけの条件より、後に思い出せる展示物や細部が少なくなる結果が出た。一方、特定の部分へズームして撮る条件では、この記憶の低下が見られなかった。[2]
写真が残ることと、頭の中に詳しい記憶が残ることは同じではない。ただし、この実験から「写真を撮る人は記憶力が悪くなる」とは言えない。特定の撮影条件と、その後の記憶課題を比べた結果であり、日常のすべての撮影へ一般化できるわけではない。
楽しさと記憶も、別々の指標である。楽しく撮ったのに細部は思い出せないことも、写真が少なくてもよく覚えていることもあり得る。「写真が多いから、その場を味わえていない」と一つにまとめないほうがよい。
何に興味を向けるかを考える入口の一つが、ビッグファイブの「開放性」です。撮影の枚数から推測せず、自分の五つの性格の傾向を質問紙で確かめてみませんか。
自分の開放性を測る(無料・登録不要)見せるために撮ると、注意の向きが変わる
写真には、自分で見返す目的と、誰かに見せる目的がある。Baraschらの研究では、共有するつもりで撮ることが、自分をどう見せるかという心配を増やし、体験の楽しさを下げる場合が示された。[3]
気になっているのが「この景色が好き」なのか、「この写真を見た人はどう思うか」なのか。どちらも撮影だが、注意の向きは違う。共有すること自体を悪いと決める必要はない。誰に見せたいのか、どんな場面なのかで受け止め方も変わる。
撮影中に落ち着かなくなるなら、「記録を残したい」のか、「よく見られる写真を作りたい」のかを一度確かめると、自分の負担を整理しやすい。これは実用上の提案で、誰にでも効果が保証された対処法ではない。
写真の枚数から性格は決められない
写真をよく撮る理由は、趣味、記録、家族への報告、仕事などさまざまだ。撮り直しを重ねる人もいれば、後で選ぶためにまとめて撮る人もいる。同じカメラロールの枚数でも、その意味は違う。
ここで扱った研究は主に、撮影の条件や目的が体験に与える影響を調べたものだ。「写真をたくさん撮る人は開放性が高い」「承認欲求が強い」と判定する根拠にはならない。性格との関係を知りたいなら、行動一つから逆算せず、普段の考え方や行動を広く尋ねる必要がある。
一緒にいる人の撮影が気になる場合も、性格の名前を付けるより、「食べ始めるまで待つのがつらい」「移動が何度も止まる」と具体的な困りごとを伝えたほうが、相談する内容ははっきりする。
撮影をやめるより、目的を確かめる
写真を減らすかどうかを、最初から決めなくてもいい。まず、自分がその日に何を持ち帰りたいのかを考える。詳しい記録、誰かとの会話、景色を眺めた時間。全部を同じ割合で優先するのは難しい。
たとえば食事なら、最初に撮る時間を短く取り、その後は料理と会話に戻る。旅行なら、撮影する場所と、歩いて味わう区間を相談しておく。これは研究結果そのものではなく、撮る楽しさと一緒にいる人の時間を両立させるための工夫である。
撮ったあと、その一枚のどこが好きだったかを思い返すのもよい。枚数を増やすことと、残したいものを選ぶことは違う。写真が自分にとって何をしてくれているかが分かれば、撮ることを責めずに使い方を選べる。
写真の多さより、撮ったあとに何が残ったか。画像だけでなく、楽しかった時間や、一緒にいた人とのやり取りも含めて考えてみたい。
いつもの行動を、五つの性格から見直す
ビッグファイブ診断では、開放性を含む五つの性格の傾向を確認できます。写真の撮り方や記憶力を判定する検査ではありません。自分が何を面白いと感じ、どんなことを気にしやすいかを考える入口として使ってください。
参考にした研究
- Diehl K, Zauberman G, Barasch A(2016)How taking photos increases enjoyment of experiences. Journal of Personality and Social Psychology. PubMed
- Henkel LA(2014)Point-and-shoot memories: the influence of taking photos on memory for a museum tour. Psychological Science. PubMed
- Barasch A, Zauberman G, Diehl K(2018)How the Intention to Share Can Undermine Enjoyment: Photo-Taking Goals and Evaluation of Experiences. Journal of Consumer Research. 出版社による研究紹介