無視する人に、よくある場面

話しかけても返事がない。自分にだけ挨拶を返さない。家では、けんかのあと何日も口をきいてくれない。はっきり責められるわけではないのに、いないものとして扱われるのは、思った以上にこたえます。

無視する人の特徴としてよく挙がるのは、相手によって返事をしたりしなかったりする、理由を言わずに黙る、こちらが謝るか折れるまで態度を変えない、といったものです。

ただ、返事がないことがすべて「わざと」とは限りません。考えごとで気づかなかった、苦手な場面で言葉が出なかった、ということもあります。挨拶が返ってこない場合の見分け方は、挨拶しない人の心理で取り上げました。この記事では、気づいているのに、あえて相手を無視する場合を考えます。

無視は「何もしていない」のではない。
黙ることで、相手に何かを伝えようとしている。

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無視されると、なぜこんなにつらいのか

Eisenbergerらは、画面の中で三人がボールを投げ合うゲームを使い、途中から自分にだけボールが回ってこない状態を作りました。すると、体の痛みのときに働く脳の部位(前帯状皮質)の活動が高まり、その強さは本人が感じたつらさと結びついていました。[1]

Williamsの総説によると、短い時間無視されるだけでも、人は悲しみや怒りを感じ、「仲間でいたい」「自分には価値がある」「ここにいると認められたい」といった基本的な気持ちが揺らぎます。[2]無視が長く続くと、それに耐える力がすり減っていくことも報告されています。

つまり、無視されて落ち込むのは、気にしすぎだからではありません。人として自然な反応です。「たかが返事がないくらいで」と自分を責める必要はありません。

わざと無視する人の心理

わざと無視する人の心の中には、いくつかの動きが考えられます。一つは、怒りや不満を言葉にせずに伝えたい気持ちです。口に出すと言い争いになるので、黙ることで「怒っている」とわからせようとします。この点は不機嫌で伝える人の心理とも重なります。

二つ目は、相手を思い通りに動かしたい気持ちです。Williamsの総説では、無視は、した側にとって「相手を左右できる」という感覚を得る手段にもなりうると整理されています。[2]黙っていれば相手が謝ってくる、という経験が重なると、無視が話し合いの代わりになってしまいます。

三つ目は、ぶつかるのが怖くて話し合いから逃げている場合です。夫婦や恋人のけんかで、片方が責め、もう片方が黙って引く形は「要求と回避のパターン」と呼ばれます。Schrodtらは74の研究、約1万4千人分のデータをまとめ、この形が強いほど、関係への満足度や話し合いの質が下がりやすいことを示しました。[3]黙る側は「これ以上けんかしたくない」と思っていても、相手には無視として届き、溝が深まりやすいのです。

この三つは、はっきり分かれているわけではありません。最初は言い争いを避けたくて黙っただけなのに、相手が謝ってきたことで「黙れば話が早い」と覚えてしまう、という流れもあります。本人も、自分がなぜ黙っているのかを言葉にできていないことが少なくありません。だからこそ、「なぜ無視するの」と問い詰めるより、黙る以外の伝え方を用意するほうが、話が前に進みやすいのです。

無視されたときの対処法

1. 気づいていないだけかを一度だけ確かめる:「さっき声をかけたけど、聞こえていた?」と、責めずに短く聞きます。思い違いなら、それで済みます。

2. 追いかけすぎない:何度も話しかけたり謝ったりすると、黙れば相手が動くという形が強まります。必要な連絡だけ伝え、あとは自分の用事に戻ります。

3. 黙ることの代わりを提案する:「怒っているなら、落ち着いてから理由を聞かせてほしい」と、話し合いの時間を別に決めると、黙る以外の伝え方を選びやすくなります。

職場で仕事に必要な連絡まで無視される、複数の人から意図的に外される、といった場合は、日時と内容を記録し、上司や相談窓口に伝えてください。一人で抱えると、それ自体が心身の負担になります。周りから浮いてしまう不安については、職場で孤立しやすい人の性格も参考になります。

反対に、自分がつい黙ってしまうと感じる人は、「今は話せないから、夜にもう一度話したい」と一言だけ伝えてみてください。黙る理由が伝わるだけで、相手の受け取り方は大きく変わります。

「無視する性格」と決めつけない

「無視する人は性格が悪い」と言われることもありますが、日常で人を無視するかどうかを、一つの性格の特徴で言い当てられる確かな研究は、今回調べた範囲では見当たりませんでした。同じ人でも、相手との関係や、そのときの疲れ具合によって、黙り方は変わります。

家族やパートナーとの間で、長いあいだ口をきかない状態が続いたり、無視が罰のように繰り返されたりして、毎日が苦しくなっている場合は、関係の問題として、自治体の相談窓口やカウンセラーなど外の人に相談することも考えてください。

無視は、言葉にできない気持ちのあらわれでもあります。相手を変えようとするより、黙る以外の伝え方を一緒に決めること、そして自分が消耗しすぎない距離を保つことが、いちばん確かな近道です。

黙り方ひとつで、人柄を決めない

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参考にした研究

  • Eisenberger NI, Lieberman MD, Williams KD(2003)Does rejection hurt? An fMRI study of social exclusion. Science, 302(5643), 290–292. DOI
  • Williams KD(2007)Ostracism. Annual Review of Psychology, 58, 425–452. DOI
  • Schrodt P, Witt PL, Shimkowski JR(2014)A meta-analytical review of the demand/withdraw pattern of interaction and its associations with individual, relational, and communicative outcomes. Communication Monographs, 81(1), 28–58. DOI