「挨拶しない」には三つの中身がある
挨拶が返ってこなかったとき、こちらから見える結果は同じである。相手が黙って通り過ぎる。しかし相手の中で起きていることは、少なくとも三つに分かれる。
一つ目は、気づかなかった場合だ。考え事をしていた、急いでいた、声が小さくて届かなかった、目が悪くて顔が分からなかった。これは性格より、注意やタイミングの問題に近い。
二つ目は、気づいたが、返しそびれた場合だ。声を出すか会釈で済ませるか迷ううちに、相手が通り過ぎてしまう。親しくない相手ほど、この迷いは起きやすい。
三つ目は、わざと避けた場合だ。関係がこじれている、距離を置きたい。この場合は挨拶の問題ではなく、関係の問題として扱う必要がある。
また、挨拶の習慣そのものも人によって違う。声を出して挨拶するのが当たり前の職場もあれば、会釈だけで済ませる職場もある。前の環境の習慣のまま動いているだけ、ということもある。
「気づかなかった」「返しそびれた」「避けた」のどれかを見る。
見過ごされるだけで、人は少し傷つく
挨拶されないことがなぜ気になるのか。その手がかりになるのが、Wesselmannらの研究である。[1]
研究では、大学構内を歩く通行人に、すれ違う人が三通りの反応をした。目を合わせる、目を合わせて微笑む、そして目は向けてもそこに誰もいないかのように見過ごす。直後に別の調査員が「この1分ほどで、周りの人からどれくらい切り離された感じがしますか」と尋ねた。
見過ごされた人は、目を合わせてもらえた人より、切り離された感じを強く答えた。一方で、微笑みがあったかどうかでは差が見られなかったと報告されている。知らない人とのほんの一瞬でも、「認められたかどうか」は気持ちに影響するということだ。
この研究は大学構内1か所での現場実験で、質問も一つだけである。それでも、挨拶が返ってこないときに小さく傷つくのは、気にしすぎではなく、多くの人に起きうる自然な反応だと考えられる。
挨拶への反応一つから性格を決めることはできません。ビッグファイブ診断は、外向性や協調性を含む五つの長期的な傾向を、質問への回答から振り返る入口になります。
自分の五つの性格を測る(無料)「相手は話したくないはず」という読み違い
では、挨拶しない側はなぜ声をかけないのか。一つの説明になるのが、相手の反応を悪く見積もりすぎる傾向である。
EpleyとSchroederは、シカゴ近郊の通勤電車で実験を行った。知らない人と話すよう頼まれた人は、一人で過ごすよう頼まれた人より、通勤を心地よく感じていた。ところが、事前に予想してもらうと、多くの人は逆に「一人のほうが快適だ」と考えていた。[2]
別の調査では、話しかけて応じてくれる人は半分に満たないだろうと予想されていた。実際には、調査票を返した人の中に、話しかけて断られた人はいなかった。ただし、参加者は実験として頼まれて話しかけており、結果も本人の報告に基づく。
さらにBoothbyらは、初対面の2人が約5分話したあと、互いの印象を尋ねた。すると多くの人が、相手が自分を好いている度合いを、実際より低く見積もっていた。[3]7段階で、自分が相手を好きな度合いは平均5.82、相手に好かれていると思う度合いは5.17だった。この差は、内気な人ほど大きかった。
同じ研究では、大学の寮で同じ部屋になった1年生も1年間追った。この見積もりのずれは数か月続き、学年の終わりになってようやく見られなくなった。顔を合わせはじめたばかりの関係では、自分が歓迎されている度合いを低く見積もったままの人がいても不思議ではない。
挨拶しない人の中には、冷たいのではなく、「迷惑かもしれない」「自分は歓迎されていない」と読み違えて、声を出すのをためらっている人もいるはずだ。
Big Fiveから一回の無反応を決めつけない
「挨拶しないのは外向性が低いからだ」「協調性が低いから返さないのだろう」と考えたくなる。しかし、挨拶の回数と特定の因子を直接結んだ研究は、ここで紹介した範囲には含まれていない。
外向性が低い人は、自分から声をかける場面が少ないかもしれない。それでも、一度返ってこなかったことから性格を逆算はできない。同じ人でも、疲れているとき、急いでいるとき、相手との関係が浅いときには、挨拶の出方が変わる。
Big Fiveが示すのは、さまざまな場面を通して続く平均的な傾向である。挨拶への反応は、その日の余裕、場所、相手との距離が重なった一場面にすぎない。
挨拶がすれ違ったときの対処
挨拶する側は、まず一度の無反応を「嫌われた」と結論づけないことだ。
気づかなかったようなら:少し近づいて、相手の視界に入ってから名前を添えて声をかける。
返しそびれたようなら:会釈だけでも十分だと示し、返事を求めすぎない。
避けられていると感じるなら:挨拶は続けつつ、関係の問題として別の場で話すか、信頼できる人に相談する。
自分が挨拶を返せないことに悩んでいるなら、声を出す必要はない。目を合わせて軽く会釈するだけでも、「あなたに気づいている」と伝わる。上の研究でも、人は相手からの好意を低く見積もりがちだった。短い会釈も、自分で思うより好意的に受け取られているかもしれない。
職場で挨拶のない状態が長く続き、仕事の連絡まで滞るなら、それは個人の性格ではなく職場の問題である。上司や相談窓口に話すことを優先してほしい。
挨拶が返るかどうかは、その人だけの性格ではなく、その場と関係の間で決まる。一度の無反応で相手を決めつけず、小さな合図を送り合える関係のほうを大切にしたい。
挨拶への反応を、性格の答えにしない
ビッグファイブ診断では、外向性や協調性を含む五つの性格傾向を確認できます。人付き合いの良し悪しを採点する検査ではありません。一場面を決めつけず、普段の自分を考える材料として使ってください。
参考にした研究
- Wesselmann ED, Cardoso FD, Slater S, Williams KD(2012)To be looked at as though air: Civil attention matters. Psychological Science, 23(2), 166–168. DOI
- Epley N, Schroeder J(2014)Mistakenly seeking solitude. Journal of Experimental Psychology: General, 143(5), 1980–1999. DOI
- Boothby EJ, Cooney G, Sandstrom GM, Clark MS(2018)The liking gap in conversations: Do people like us more than we think? Psychological Science, 29(11), 1742–1756. DOI