酒を飲ませて録画して確かめた実験

2017年に米国で行われた研究がある。参加者156人を集め、半数には本物の酒を、半数にはそうでないものを飲んでもらった。ひとりずつではない。同性の友人どうしのグループで集まってもらい、性格が出やすいような課題を一緒にやってもらう。その様子はすべて録画された。

参加者は、その二週間前に「素面のときの自分」と「酔ったときの自分」の性格を自分で答えている。当日も短い形で答えた。そして録画は、訓練を受けた評価者5人から17人によって、三種類の性格尺度で採点された。本人がどう感じたかと、外からどう見えたかを、別々に測ったわけだ。

結果はこうだった。自分で感じた「素面と酔ったときの違い」は、外から観察された違いよりも、はるかに広い範囲に及んでいた。本人は「大胆になる」「優しくなる」「だらしなくなる」と、いくつもの面が変わったと報告する。ところが録画を見た評価者には、その多くが見えていない。

測り方と報告者をまたいで確かだったのは、外向性の変化だけだった

つまり、外から見て「本当に変わった」と言えるのは、人と関わる量やにぎやかさの部分に集中していた。他の面の変化は、多くが本人の内側の感覚のほうにあった。

「飲むと人が変わる」の大半は、変わった気がしているということだった。

これは、酔った人を擁護する話ではない。むしろ逆の使い方ができる。「酒のせいで自分ではなくなった」という説明が、外からの観察では支えられていないということだからだ。次の日に「昨日は自分じゃなかった」と言われても、見ていた側の目には、その人がその人のまま、少しにぎやかになっただけに映っていた可能性が高い。

それでも「酔い方」には型がある

平均するとほとんど変わらない。しかし、変わり方の大きい人は確かにいる。同じ研究チームが2016年に発表した別の研究が、そこを扱っている。

374人に、素面のときと酔ったときの五因子(外向性・協調性・誠実性・感受性・開放性)を自分で答えてもらい、その変化のしかたが似ている人どうしをまとめた。すると四つの型に分かれた。研究では文学や映画の登場人物の名前が付けられている。

①ヘミングウェイ型(いちばん多い)。酔ったときの誠実性と知的な面の下がり方が、平均より小さい。よく飲むが、あまり変わらない人たちだ。

②メリー・ポピンズ型。素面のときから協調性が高く、酔っても誠実性の落ち方が小さく、外向性の上がり方が平均より大きい。感じのよい酔い方をする人たち。

③ハイド氏型。酔ったときの誠実性と知的な面の下がり方が大きく、そのわりに外向性はあまり上がらない。にぎやかにならずに、判断だけがゆるむという組み合わせになる。

④ナッティ・プロフェッサー型。素面では外向性が低い。ところが酔うと外向性の上がり方が平均より大きく、誠実性の下がり方は小さい。ふだん静かな人が、飲むとよくしゃべるという、いちばん「変わった」と言われやすい型だ。

どの型に入るかは、酒による困りごとの多さと関係していた

研究では、型の違いが酒にまつわる嫌な出来事の経験数と結びついていたと報告されている。変わる量そのものより、どの向きに変わるかのほうが問題になる。

ここで一つ、思い違いを解いておきたい。「変わったように見える人=危ない人」ではない。いちばん「変わった」と言われやすいのは④で、これはにぎやかになる方向の変化だ。危ないほうの③は、外から見るとむしろ静かなままで、判断の側だけが落ちている。周りが気づきにくいのは、静かなほうである。

「飲むと人が変わる」と言われやすいのは、素面のときの外向性が低い人です。変化の幅は、素面のあなたがどこにいるかで決まります。自分の位置は5分で測れます。

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変わっているのは性格ではなく、目に入る範囲

では、酔ったときに実際に何が起きているのか。1990年に出された考え方が、いまも研究の土台になっている。アルコール近視と呼ばれるものだ。

酔うと、視野が物理的に狭くなるわけではない。狭くなるのは注意のほうだ。その場でいちばん目立っている手がかりに、行動が引きずられる。先のことや、その場にない事情は、考えの外に出ていく。

この考え方を、ずいぶん意地の悪い形で確かめた実験が2018年にある。酔うと賭け事が大胆になる——これは誰もが思っていることだ。研究者はそこで、スロットマシンの画面に当たる確率の低さを、大きな文字で表示した

結果は予想の逆だった。確率の低さを目立たせた条件では、酔った参加者のほうが、素面の参加者よりも早く賭けをやめた。実験室で三回繰り返し、三回目では視線の動きを測って、「目立つ表示をよく見ていたこと」が効果の橋渡しをしていることまで確かめている。さらに研究チームは、実際のバーで同じことを試した。確率の低さが目立つようにしておくと、飲んでいる量が多い客ほど、賭けを早くやめた。

酔うと大胆になるのではない。そのとき目立っているものに、素直になる。

この見方に立つと、酔った人の振る舞いの説明がずいぶん変わってくる。目の前にあるのが楽しさなら楽しくなり、恨みなら恨みが出る。同じ人が、日によって違う酔い方をするのは、性格が日替わりだからではなく、そのとき何が目立っていたかが違うからだ。

実際の使いどころもここにある。酔った人と話すときに、遠い先の話や込み入った事情を持ち出しても届かない。届くのはいま目の前にあるものだけだ。だから、酔った人を止めたいときは、説得ではなく目立たせるほうが効く。伝票を見せる、時計を見せる、帰りの電車の時刻を出す。理屈より、目に入る形にする。

日本の話――顔が赤くなる人と「もう抜けた」の落とし穴

ここまでは主に欧米の研究だった。日本にいる人には、もう一つ大事な事情がある。アルコールを分解する酵素の働きに、生まれつきの違いがあることだ。日本人にはこの働きが弱い型が多く、飲むと顔が赤くなるのはそのためだと知られている。

2023年に日本で行われた試験が、この体質と「酔いの抜け方」を結びつけている。参加者に少量(体重1kgあたり0.33g)の麦焼酎を飲んでもらい、12時間にわたって呼気と作業能力を測った。焼酎を飲まない回と比べる形で、順番を入れ替えて行っている。

着目されたのは、呼気のアルコールが日本の運転の基準値(0.15mg/L)を下回った時点だ。数字の上では「もう飲んでいないのと同じ」とされる状態である。

基準値を下回っても、作業能力の戻りは遅れていた

作業の速さと正確さを測る検査で、飲む前の水準に戻るまでの時間が、酵素の働きが弱い型の人のほうが長かった。また、顔の赤みと気分の高まりの強さは、呼気に出てくる分解途中の物質の濃度と対応していた。

この結果は、二つのことを教えている。一つは、「顔が赤くなる」は酔いの深さの目印ではなく、体質の目印だということ。赤くなりやすい人は、少ない量でも気分が高まりやすい。まわりから見ると「あの人は少しで変わる」に見えるが、性格の問題ではない。

もう一つは、こちらのほうが大事だ。呼気の数字が基準を下回っても、頭の働きは戻りきっていないことがある。「一晩寝たから」「もう息に出ないから」は、運転してよい根拠にならない。飲んだ日と、その翌朝は運転しない。ここだけは、性格の話とは切り離して守るところになる。

どこからが、気にしたほうがいい飲み方か

ここまで、酔ったときの変化は思ったほど大きくない、という話をしてきた。ただし、性格の話で片づけてはいけない領域がある。線引きをはっきりさせておきたい。

①記憶が飛ぶ。2019年に350人を対象に作られた尺度では、記憶が飛ぶ現象が二つに分けられている断片的なもの(人に言われれば思い出せる、ところどころ抜ける)と、まるごと抜けるもの(その時間帯そのものが無い)だ。後者は、頭が新しい記憶を作る働きそのものが止まっている状態を指す。「よくあること」として扱わない。

②翌日に後悔することが繰り返される。先に見たとおり、酔いは目立つものに素直になる状態だった。それが繰り返し同じ方向に出るなら、素面のときにその材料が溜まっているということでもある。酒をやめる話の前に、そちらを見たほうが早いこともある。

③減らそうとして、減らせない。量を決めても守れない、飲む場面を避けられない、周りから言われて腹が立つ。ここまで来ると、意志の強さの話ではなくなる。

①か③に当てはまるなら、内科でも心療内科でもよいので、一度相談してほしい。専門の相談窓口も各地にある。性格を直す話ではなく、体と習慣の話として扱ったほうが、うまくいく。

そして、そこまでではない大多数の人にとっての結論は、この記事の最初に戻る。あなたは、酔っても思ったほど別人になっていない。にぎやかになった分だけ、まわりはそう見ている。だとすれば「昨日の自分は自分じゃなかった」という言い方は、少し都合がよすぎることになる。逆に、飲んだ席で言われたことを重く受け取りすぎるのも、同じくらい当たっていない。素面のその人と、酔ったその人は、思っているよりずっと近い。

素面の自分の位置を知っておく

酔ったときにどれだけ変わって見えるかは、素面のときにどこにいるかで決まります。ふだん外向性が低い人ほど、変化の幅が大きく見える型に入りやすいことが研究で示されています。自分の五つの性格の位置を知っておくと、飲む席での自分の振る舞いを、性格のせいにも酒のせいにもせずに見られるようになります。

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参考にした研究

  • Winograd RP, Steinley D, Lane SP, Sher KJ(2017)「An Experimental Investigation of Drunk Personality Using Self and Observer Reports」Clinical Psychological Science PubMed
  • Winograd RP, Steinley D, Sher KJ(2016)「Searching for Mr. Hyde: A Five-Factor Approach to Characterizing "Types of Drunks"」Addiction Research & Theory PubMed
  • Wagner B, Sevincer AT, Keim S, ほか(2018)「Alcohol intake can reduce gambling behavior」Psychology of Addictive Behaviors PubMed
  • Matsuura T, Kushio S, Imai T, ほか(2023)「Association between psychomotor function and ALDH2 genotype after consuming barley shochu: A randomized crossover trial」Clinical and Translational Science PubMed
  • Miller MB, DiBello AM, Merrill JE, ほか(2019)「Development and initial validation of the alcohol-induced blackout measure」Addictive Behaviors PubMed