なぜ性格でお金の使い方が変わるのか

「今月も使いすぎた」と月末に思う人と、「今月も予定通り貯まった」と思う人。この差は、年収や学歴では説明しきれない部分がある。

行動経済学の分野では、個人の金銭行動と性格特性の関係が長年研究されてきた。その中で、ビッグファイブ(Big Five)という5因子モデルが、金銭行動を予測するうえで最も信頼性の高い枠組みとして使われている。

理由はシンプルだ。ビッグファイブの5つの因子は、それぞれ「衝動的な行動を抑えられるか」「将来を考えて動けるか」「目の前の刺激に弱いか」といった、お金に関する判断の根っこに関わる傾向を測っているからだ。

ハーバード・ビジネス・スクールのDonnellyら(2012)の研究では、誠実性が高い人は将来志向が強く、金銭的自己コントロールが高いことが示されている。これは「性格の問題」ではなく、脳の働き方の傾向の違いだ。意志の力でどうにかしようとする前に、自分の傾向を知っておく方がよっぽど建設的だと思う。

5因子別に見る金銭行動の傾向

誠実性(Conscientiousness):最も強く影響する因子

ビッグファイブの5因子の中で、金銭行動に最も強い影響を持つのが誠実性だ。PariseとPeijnenburg(2019)の研究をはじめ、複数の論文が誠実性が高い人は貯蓄が多く、無担保債務が少ないことを確認している。

理由は3つある。一つ目は、衝動的な買い物を抑えられること。二つ目は、計画を立てて実行できること。三つ目は、将来のことを今の行動に反映できること。この3つが揃うと、極端な節約をしなくても自然にお金が貯まる。

逆に誠実性が低い人は、「なんとなく」お金を使う傾向がある。悪気はない。計画を立てること自体にモチベーションが向かないため、家計簿アプリを入れても3日で消えるし、給料日直後は財布がゆるい。

誠実性が高い人の特徴:予算を決めて使う、衝動買いが少ない、将来の支出まで見越して備える

誠実性が低い人の特徴:その場の気分で決める、計画は立てるが続きにくい、「まあいいか」が多い

外向性(Extraversion):社交費がかさむ傾向

外向性が高い人は、人との交流にお金を使いやすい。飲み会、イベント、旅行、プレゼント。これ自体は決して悪いことではない。人間関係に投資するお金は、心理的な豊かさにも繋がるからだ。

ただし研究では、外向性が高い人は投資信託などの金融計画への参加が少なく、クレジットカードの使いすぎ傾向があることも分かっている(Brown & Taylor, 2014)。目の前の「楽しい」に反応しやすい脳の傾向が、お金の面では弱みになることがある。

外向性が低い人は、そもそも外出や交際の機会が少ないため、消費額が自然に低くなりがちだ。節約努力をして貯めているというより、使う場面が少ないという側面が大きい。

神経症性(Neuroticism):不安が買い物を生む

神経症性が高い人とお金の関係は、少し複雑だ。不安やストレスを感じやすいこの特性は、「衝動買い」と「過剰な貯金」の両方に関わっている。

ある人は、不安を紛らわせるために買い物をする。これは「感情的消費」と呼ばれる。研究でも、感情的な不安定さがクレジットカードの利用額と相関することが確認されている。一方で、別の人は「お金がないと不安だから」という理由で極端に貯め込む。同じ神経症性が高いでも、不安の向き先で真逆の行動になる。

大切なのは、自分がどちらの傾向にあるかを知ることだ。「なぜ今、これを買おうとしているのか」に気づけるかどうかで、結果が変わってくる。

協調性(Agreeableness):人のためにお金を使う

協調性が高い人は、他人のためにお金を使うことが多い。奢る、貸す、寄付する。こうした行動は人間関係を良くする一方で、自分の財布を圧迫することがある。

BrownとTaylorの研究では、協調性が高い人は金融資産が少ない傾向が示されている。自分の利益を優先することが苦手なため、お金を守る行動が後回しになりやすい。

ここで気をつけたいのは、「協調性が高い=金銭的にルーズ」という単純な話ではないということだ。むしろ、お金の使い道として「自分より他人」を選んでいるだけで、使い方自体に無計画さがあるわけではない。

開放性(Openness):体験への投資が多い

開放性が高い人は、新しい体験にお金を使う。旅行、趣味、学び、アート。モノよりコトへの消費が多い傾向がある。

これは悪いことではない。実際、「お金を使って経験を買う人ほど幸福度が高い」という研究結果もある(Kumar, Killingsworth & Gilovich, 2014)。ただし、新しいことへの好奇心が強い分、次々と趣味が変わって出費がかさむパターンには注意が必要だ。

開放性が低い人は、消費のバリエーションが少ない分、出費が予測しやすい。新しいことにあまり興味がないため、無駄遣いの定義自体が違ってくる。

この記事の話は、ビッグファイブでいう「誠実性」と関わりがあります。自分の誠実性がどのくらいかは、5分で測れます。

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「貯まらない」を変える前に知っておくこと

ここまで読んで、「自分は誠実性が低いから貯まらないんだ」と思ったかもしれない。でも、そこで終わってはもったない。

性格は変えられない。でも、性格に合った方法なら続けられる。これが大事なポイントだ。

誠実性が低い人に「家計簿をつけましょう」と言っても続かない。それは努力が足りないからではなく、その方法がその人の認知スタイルに合っていないからだ。合わない方法を無理に続けるのは、サイズの合わない靴でマラソンするようなものだ。

誠実性が低い人向けのアプローチ:

「意志の力」に頼らない仕組みを作る。給料日の翌日に自動で貯金口座に移す、クレジットカードの利用枠を下げる、買い物アプリの通知を切る。決断の回数を減らすことが、誠実性が低い人にとって最も効果的な対策だ。

外向性が高い人向けのアプローチ:

社交費を「予算」として明確に分ける。「人との時間にお金を使うのは良いこと」と認めた上で、月にいくらまでと決める。制限ではなく、配分の話にする。

神経症性が高い人向けのアプローチ:

不安から買い物をしていることに気づく。買い物の前に「これは欲しいからか、不安だからか」を3秒だけ考える。それだけで、感情的な消費はかなり減る。

どのタイプでも共通して言えるのは、自分の傾向を知ることが最初の一歩だということ。自分が何に弱いのか、何にお金を使いがちなのか。それを性格の視点から理解すると、「なんだかんだ使いすぎる」の繰り返しにピリオドが打てる。

自分の金銭タイプを知る

ビッグファイブ診断を受けると、5つの因子それぞれのスコアが数値で出る。誠実性が何点か、外向性が何点か。この数字を知るだけで、自分のお金の癖がかなり明確になる。

例えば、誠実性が低く外向性が高いなら「社交費で散財しがちタイプ」。誠実性が高く神経症性も高いなら「不安で貯め込むタイプ」。こういう傾向が分かると、対策も具体的になる。

性格の傾向は善でも悪でもない。「こういう傾向がある」という事実を知ることで、無駄な自己嫌悪を減らし、自分に合った方法を選べるようになる。それが、ビッグファイブをお金の話に活かす一番の価値だと思う。