「合わない」は性格の問題じゃない
職場で人間関係に疲れたとき、多くの人が「自分の性格が問題なんじゃないか」と感じる。気を使いすぎてヘトヘトになった日の帰り道、「もう少しうまくやれれば…」と思う。
でも、この「うまくやれない」感覚の多くは、自分の性格の問題ではなく、「性格と環境の相性」の問題だ。
心理学にはPerson-Environment Fit(人と環境の適合性)という概念があり、人のパフォーマンスや職場満足度は個人の能力だけでなく、その人と職場環境の相性によって大きく左右されることがわかっている(Kristof-Brownら、2005)。同じ性格でも、ある職場では活き活きして、別の職場では消耗する。それは意志の強さや努力とは別の問題だ。
ビッグファイブの視点で見ると、「どの職場でも活躍しやすい性格」というよりも、「どの性格がどんな環境に合いやすいか」がより正確な問いになる。そしてその前提を持つだけで、「自分が悪い」という思い込みから少し自由になれる。
性格タイプ別、職場での摩擦パターン
「あの人と合わない」「なんかしんどい」という感覚には、たいてい性格の差が関係している。5因子ごとに、職場での典型的な摩擦パターンを見ていく。
協調性が高い人(気を使いすぎるタイプ)
誰かが不機嫌だと気になる。全員の感情を把握しようとする。場の空気を読みながら自分の発言を選別する。これは心理学的には「感情労働(Emotional Labor)」と呼ばれる概念に近く、感情の読み取りや管理に認知資源を消費し続けることで、蓄積疲弊を引き起こすことが知られている(Hochschild, 1983)。
「もう少し鈍感になれ」と言われることもあるかもしれない。でもこれは「もっと背を高くしろ」と言うのと同じくらい意味がない。周りの感情を敏感に読み取ることは気質に根ざしており、努力でオフにできる機能ではない。問題は「繊細さ」ではなく、「繊細な人が消耗する環境」の方にある。
外向性が低い人(内向的なタイプ)
ミーティングでうまく発言できない。飲み会で「積極性がない」と評価される。でも外向性が低い人は、集団の場でのエネルギー消費が大きく、一人で集中する時間でパフォーマンスが回復する。これは怠慢ではなく、エネルギーの補充パターンが違うということだ。Cainsの研究(Quiet, 2012)をはじめ、内向型が特定の環境でより力を発揮できることは幅広く示されている。
会議での発言量と仕事の質は、必ずしも比例しない。ただ現実として、多くの職場評価は「目に見える発言」を基準にしがちで、そこに内向型のハンデが生まれやすい。
神経症傾向が高い人(感受性が強いタイプ)
ちょっとしたミスを長く引きずる。言われた一言が何日も頭に残る。神経症傾向が高い人は、職場ストレスの影響を受けやすく、反芻思考(同じ出来事を繰り返し考える)が起きやすいことが多くの研究で確認されている。意志の弱さではなく、神経系の感受性の問題だ。
一方でこの特性は、細部への注意やリスク察知という形でも現れる。問題を事前に察知して防ぐ能力は、この因子が高い人が持ちやすい強みでもある。
誠実性が高い人は「こうあるべき」という基準が明確なため、ルーズな職場文化や場当たり的な意思決定に強いフラストレーションを感じやすい。開放性が高い人は、変化のない反復業務や創造性の余地がない環境で、能力を持て余しやすい。どの因子も、環境とのズレ方によって「強み」にも「摩擦源」にもなる。
この記事の話は、性格の5つの因子(ビッグファイブ)で読み解けます。自分の傾向は5分で測れます。
ビッグファイブ診断を受ける(無料・登録不要)「合わない」相手を性格で理解する
苦手な相手がいるとき、「あの人は性格が悪い」で終わらせると、ずっとしんどいままになる。相手の性格タイプを理解するだけで、摩擦の原因が「悪意」ではなく「性格の差」だとわかることがある。
たとえば、平気でズバズバ発言してくる人は、協調性が低く神経症傾向も低い傾向がある。相手を傷つけようとしているわけではなく、「こんなこと言ったら相手がどう感じるか」という処理をあまりしていない。自分が「言う前に十回考える」タイプからすると、信じられないくらい無神経に見える。でも相手は単に、思ったことを言っているだけだ。
このズレは、どちらが正しいかの問題ではない。ただ、「悪意がある」と解釈するか「性格が違う」と解釈するかで、ダメージの受け方は大きく変わる。
逆に、自分が協調性が高く気を使いすぎるタイプだと、ズバズバ言われるたびに消耗する。そういう相手との付き合い方は、「この人は処理している情報の種類が違う」と前提を変えるだけで、少し楽になる。相手に変わってもらおうとするより、解釈を変える方が現実的だ。
「あの人がなぜこう動くのか」を性格の観点から考えることは、感情的なダメージを減らすだけでなく、相手との関わり方を変えるヒントにもなる。ビッグファイブの「あの人診断」(他者の性格を推測して保存できる機能)は、そのために使えるツールの一つだ。
自分の性格が活きる環境を選ぶ
「合う環境を選ぶ」という発想を持てると、職場での消耗が大きく減る。
外向性が低い人は、大部屋で雑談が飛び交う職場よりも、一人で集中できる業務が中心の環境の方がパフォーマンスが出やすい。協調性が高い人は、競争的な職場より、チームで協力する文化がある職場の方が力を発揮しやすい。神経症傾向が高い人は、常に急かされる環境や、ミスに厳しい職場は特に消耗しやすい。
性格を無理に変えようとするよりも、自分の性格が活きる文脈を探す方が、長い目で見ると効率がいい。これは「妥協」ではなく、「自分を正しく使う」という選択だ。
スポーツトレーナーをしていたとき、指導の方法を変えても続かない人が、環境を変えると同じ人間でも続けられることがあった。やり方の問題ではなく、環境の問題だったということだ。性格と環境の相性は、それぐらい行動に影響する。どれだけ意志が強い人でも、自分に合わない環境の中では消耗するだけで終わる。
自分の5因子スコアを確認し、それぞれの傾向が活きる職場条件を把握することは、キャリア選択の根拠になる。「自分はこういう人間だ」という自己理解と、「こういう環境が合う」という環境の理解、その両方が揃うと、転職や部署異動の判断にも使えるようになる。
自分の性格タイプを確認する
「自分が職場でしんどいのはどの因子が関係しているか」を知るには、まずビッグファイブで自分のスコアを測ることが出発点になる。外向性・神経症傾向・協調性・誠実性・開放性の5軸でどこが高くどこが低いかがわかると、「職場でのしんどさの根っこ」がはっきりしやすい。
さらにキャリア適性診断を使うと、自分の性格特性がどの職種・業界の環境と相性がいいかを確認できる。現在の職場に留まるにしても、別の環境を探すにしても、根拠を持って考えられるようになる。