差が出るのは「進路を塞がれたとき」だけだった

運転中の怒りを調べた実験がある。日ごろ運転中によく怒る人と、あまり怒らない人を集め、運転シミュレーターで走ってもらった研究だ。二つの群は、運転する頻度も走行距離も同じだった。

結果ははっきり分かれた。前がすいていて自由に走れる条件では、二つの群に差はなかった。怒りの強さも、攻撃的な言動も、ほとんど同じだったのだ。差が出たのは、前の車に進路を塞がれ、思うように進めない条件に限られた。そこでは、よく怒る群のほうが強い怒りを報告し、言葉や身ぶりでの攻撃も増え、衝突までの余裕が短く、事故を起こす確率は約2倍になった。

つまり「運転すると人が変わる」という言い方は、正確ではない。車に乗った瞬間に別人になるのではなく、進みたいのに進めないという条件がそろったときだけ、その人の中にあったものが表に出る。日常でこの条件が毎日そろう場所は、実はそれほど多くない。

運転は「邪魔されること」が制度として組み込まれた場所

信号、渋滞、割り込み、前の車の速度。自分の意思とは関係なく止められる場面が、一回の運転で何十回も来る。しかも相手の顔は見えず、事情も説明されない。

車が人を変えるのではなく、車の中には邪魔される場面が集中している

運転の荒さと結びつく性格は、思ったより狭い

では、どんな性格の人がそうなりやすいのか。22の研究・11,211人をまとめたメタ分析が、危険な運転行動と五つの性格との関係を整理している。

関係があったのは二つだけだった。協調性が低いほど危険な運転が多く(r=-0.27)、感受性(神経症傾向)が高いほど多い(r=0.16)。一方で外向性・誠実性・開放性は、いずれも意味のある関係がなかった。「せっかちな人」「大ざっぱな人」というイメージで語られがちだが、少なくとも五因子のうち誠実性は、危険な運転を予測していない。

同じ分析でもっと強く効いていたのは、性格そのものではなく、運転という場面に固有の二つだった。刺激を求める傾向(r=0.28)と、運転中の怒りやすさ(r=0.39)である。運転中の怒りは、性格の一般的な怒りっぽさとは別に測られている。ふだん温厚な人が運転中だけよく怒る、ということは実際に起こりうる。

怒りの側からも同じ結論が出ている。過去20年・51研究をまとめた分析では、運転中の怒りは攻撃的な運転(r=0.31)、危険な運転(r=0.24)、操作の誤り(r=0.18)のすべてを予測した。事故そのものとの関係は弱いが、統計的には残っていた。

運転中の荒さと最もはっきり結びついていた性格は、協調性でした。診断は運転の腕前を測るものではありませんが、相手の事情をどれだけ善意に読み取りやすいかという土台を確認できます。

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「運転で変わる」の中身は一つではない

320人の運転者に、運転の癖と性格をまとめて聞いた研究がある。そこで浮かび上がった運転のしかたは、四つに分かれた。

①無謀な運転②怒りっぽい運転は、どちらも男性・若い年代に多く、スリルを求める傾向が高く、協調性と誠実性が低い人に目立った。ただし中身は違う。無謀なほうは運転そのものの緊張を楽しむ動機と結びつき、怒りっぽいほうは「自分が状況を支配できているか」「どれだけ煩わされたか」という感じ方と結びついていた。

③不安な運転は、まったく別の顔をしている。女性に多く、誠実性が低く感受性が高い人に見られ、運転を苦痛と煩わしさの原因として受け取っていた。④慎重な運転は、協調性・誠実性・開放性が高く、スリル追求が低い人に多かった。

ここが大事なところだ。「運転すると人が変わる」と周りから言われる人の中には、攻撃的になる人だけでなく、極端に不安になって固まる人も混ざっている。黙り込む、急に無口になる、細かく確認を繰り返す。これも同じ言葉でまとめられてしまう。責める前に、どちらなのかを分けたほうがいい。

同乗者が見分ける質問

渋滞や割り込みのあと、その人は「相手の運転」について話すか、「自分の運転」について話すか。前者が続くなら怒りの側、後者ばかりなら不安の側の可能性が高い。

分かれ目は怒りの量より、いらだちに耐える時間

同じ場面で割り込まれても、舌打ちで終わる人と、追い越して前に出る人がいる。この差を、怒りの量ではなく不快な感情をどれだけ抱えていられるかで説明した研究がある。

769人を対象にした調査では、年齢・性別・学年・運転頻度などを差し引いても、いらだちを抱えていられる時間が短い人ほど、危険な運転も攻撃的な運転も多かった。怒りを感じること自体が問題なのではなく、感じてから行動するまでの間が持たないことが問題だという見方だ。

この違いは実用的でもある。性格は短期間では変わらないが、「怒りを感じてから何秒待つか」は場面ごとの話であり、あらかじめ決めておける。前の車が遅い、割り込まれた、クラクションを鳴らされた。こうした場面で自分が何をするかを、運転する前に一つだけ決めておくほうが、運転中に自分を説得するより確実に効く。

待ち時間そのものを設計に組み込む手もある。到着時刻を10分遅く見積もる、渋滞する時間帯を避ける、目的地までの経路を事前に決める。「進めない」が予定に入っていれば、進めないことは裏切りではなくなる

変えるのは性格ではなく、怒りの出口

運転中の怒りをどう表すかを調べた研究では、表し方が四つに整理されている。言葉で表す(怒鳴る・悪態をつく)、自分の体で表す(降りて文句を言う)、車を使って表す(パッシング、幅寄せ、進路を塞ぐ)、そして建設的に処理する(安全運転に集中する、意識して力を抜く)だ。

危険とはっきり結びついていたのは、三つの攻撃的な表し方、なかでも車を使って表すものだった。車は体そのものより速く、重く、取り消しがきかない。同じ怒りでも、出口が車になった瞬間に結果の重さが変わる。

注目したいのは、建設的な処理が、攻撃的な表し方とほとんど相関していなかった点だ。怒りを感じなくなることと、安全に運転することは別の目標である。怒りを消そうとしなくてよい。出口を、車以外のどこかに用意すればいい。声に出して「今のは危なかった」と言い切ってしまう、深く息を吐く、車間を空ける。どれも怒りを否定していない。

同乗者の側にも役割がある。運転中に人格を注意しても、その場では逆効果になりやすい。言うなら運転が終わってから、「あのとき怖かった」と自分が受け取ったことだけを伝える。相手の性格の評定ではなく、事実の報告のほうが届く。

最後に線引きを一つ。以前は問題なかったのに急に荒くなった、運転以外の場面でも抑えがきかない、他人を実際に追い回した、家族が同乗を怖がっている。こうした段階に入っているなら、「運転すると人が変わるタイプ」で片づけないほうがいい。睡眠不足、痛み、薬、気分の落ち込みでも、我慢できる時間は短くなる。生活に影響が出ているなら、かかりつけ医などへ相談してほしい。

運転の場面に出てくる、自分の土台を知る

ビッグファイブ診断は運転の適性検査ではありません。協調性や感受性を含む五つの性格を測り、相手の事情をどう受け取りやすいか、いらだちがどう積もりやすいかという土台を確認します。自分を責める材料ではなく、どの場面を先に設計するかを決める材料として使ってください。

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参考にした研究

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  • Taubman-Ben-Ari O, Yehiel D(2012)「Driving styles and their associations with personality and motivation」Accident Analysis & Prevention PubMed
  • Beck KH, Ali B, Daughters SB(2014)「Distress tolerance as a predictor of risky and aggressive driving」Traffic Injury Prevention PubMed
  • Deffenbacher JL, Lynch RS, Oetting ER, Swaim RC(2002)「The driving anger expression inventory: a measure of how people express their anger on the road」Behaviour Research and Therapy PubMed