「5つ」って、少しぐらつかないか

ネットで性格診断をやっていると、必ず「ビッグファイブ」という言葉に行き当たる。SNSでも本でも、少し調べればすぐ出てくる。「MBTIよりも科学的だ」という文句も、たいていセットでついて回る。

でも、ふと疑問に思わないか。性格をたった5つの軸で分けるなんて、少し乱暴じゃないか、と。

診断が示すタイプの数は、作った人によってバラバラだ。MBTIは16、エニアグラムは9、ソーシャルスタイルは4。中には数十に分けるものまである。その中でビッグファイブだけが「5」を主張する。数字がこれだけ違うと、どれが正解か分からなくなる。もし「5」だと言う根拠が、ただの好みや思いつきだったら、これは流行の一つに過ぎないことになる。

その疑問はまっとうだ。実際、心理学者たちも長いあいだ同じ壁にぶつかっていた。そしてビッグファイブの「5」は、誰かの直感で決まった数字ではない。1936年に始まった、地味で根気の要る研究の積み重ねが、行き着いた先だ。

始まりは1936年の、分厚い辞書

話は1936年に遡る。心理学者のゴードン・オールポートとヘンリー・オドバートが、ある壮大な作業に取りかかった。Websterの英語辞典を端から読み、人間の性格を表す言葉をすべて書き出す、という仕事だ。二人が最終的に拾い上げた言葉は、約18,000。これだけの数になった。

なぜわざわざこんなことをしたのか。彼らの頭にあったのは「語彙仮説(Lexical Hypothesis)」という発想だ。

人間の性格で意味のある違いは、長い歴史の中で必ず言葉にされてきた、という仮説だ。昔から人は「あの人は短気だ」「あの人は人がいい」「あの人は優柔不断だ」と言ってきた。つまり、観察する価値のある性格の差は、人々が言葉にする必要があったからこそ、言葉として辞書に残った。だから辞書を洗えば、性格の全貌が浮かび上がるはずだ、という理屈だ。

辞書に性格を表す言葉がこれだけある、という事実だけでも一つの発見だった。人間は古くから、お互いの性格の違いを細かく観察し、言葉を与えてきた。その蓄積が18,000語にまで膨れ上がっている。

なるほど、出発点としては面白い。だが、ここで困るのは、18,000は多すぎる、ということだ。このままでは使い物にならない。どこかで絞り込まなければ、診断にはならない。

18,000の言葉が、最終的に5つに落ちる

18,000語をそのまま並べても、人は覚えられない。何とか意味のある少ない数にまとめたい。ここで登場するのが「因子分析」という統計の技法だ。似たような文脈で使われる言葉を束ね、背後にある大きなまとまり(因子)を浮かび上がらせる方法だ。「几帳面」「真面目」「計画的」が同じグループに集まる、といった具合に。

レイモンド・キャッテルが1950年代にこの作業を進め、いくつかの因子を抽出した。だが決定打は、1961年に来る。エドワード・テュープスとレイモンド・クリスタルが、米空軍の複数の評価データを集めては因子分析を繰り返した。そして驚いたことに、どのデータを使っても、最終的に同じ5つのまとまりが浮かび上がった。外向性、協調性、誠実性、情緒安定性、知性(のちに開放性と呼ばれるもの)という5つだ。

その後、ウォーレン・ノーマンが別のデータで同じ分析を繰り返し、やはり同じ5つが現れることを確かめた。違う人間が、違うデータで、何度計算し直しても5つ。

ここが、ビッグファイブが他の診断と決定的に違うところだ。MBTIは、理論家カール・ユングの頭の中にあるアイデアをもとに組み立てられた。一方ビッグファイブは、言葉のデータから逆算して、繰り返し同じ5つが立ち上がってきた。上から決めたのではなく、下から浮かび上がった。この「5」には、データの重みがある。

これが「なぜ5つなのか」という問いへの、一番誠実な答えだ。誰かが5つだと決めたのではなく、言葉のデータを何度計算し直しても、5つのまとまりしか安定して浮かび上がらなかった。だから5つなのだ。

「ビッグファイブ」と名付けられた日

5つの因子が安定して現れることは分かった。だが、これにはまだ名前がなかった。「ビッグファイブ(Big Five)」という呼び名を定着させたのは、1980年代のルイス・ゴールドバーグだ。「ビッグ」とつけたのは、それぞれの因子がどれも非常に幅広い意味を持つからであって、派手な数字という意味ではない。

名前がついただけでは、まだ測る道具がない。ここで重要な役割を果たしたのが、ポール・コスタとロバート・マクレーの二人だ。彼らは1985年にNEO-PIという検査を作った。当初は神経症性・外向性・開放性の3因子だけを測るものだったが、1992年にこれを5因子すべてを測るNEO-PI-Rへと拡張した。240の設問で5つの因子を、さらにその下位にある30の側面(ファセット)まで測る、精緻な道具だ。

これで、世界中の誰が測っても同じ基準で性格を測れるようになった。さらにマクレーらは2005年、50の文化で同じデータを分析し、言語や文化が違っても同じ5因子構造が現れることを確かめた。ビッグファイブは特定の文化の産物ではなく、人間という種の性格の地盤を表している、とされる根拠がここにある。

日本語になったビッグファイブ

日本に本格的に入ってきたのは、1999年のことだ。下仲順子らが、NEO-PI-Rの日本語版を作り上げた。単なる直訳ではなく、いったん日本語にしてからまた英語に戻す「逆翻訳」を重ね、日本の文化でも同じ意味が測れるようにした、地道な仕事だ。これで日本の研究でもビッグファイブが使えるようになった。

ただ、NEO-PI-Rは240問ある。研究には向いていても、日常使うには長い。そこで2012年、小塩真司らがTIPI-Jという10項目版を開発した。たった10問で5因子をざっくり測れる、手軽な道具だ。

そして今は、ネット上で10問・30問・120問から好きな長さを選べる。一番長い120問でも15分あれば終わり、結果画面では因子の下にある細かい側面まで見える。かつては専門家が研究室でしか使えなかった測定道具が、スマホ一つで誰でも使えるようになった。性格心理学の長い歴史の中で見ると、これはかなり最近の変化だ。

つまり、あなたが今数分で受けられるビッグファイブ診断は、1936年の辞書作業から数えて90年、日本語版が出てからでも四半世紀以上の時間をかけて磨かれた道具を、手軽に借りている状態だ。

5つで終わりなのか、という問い

ここまで書くと、ビッグファイブはもう完成した正解のように聞こえるかもしれない。そうではない。

現在でも、「本当に5つで十分なのか」という議論は続いている。例えばHEXACOというモデルは、ビッグファイブに第6の因子として「正直・謙虚(Honesty-Humility)」を加えるべきだと主張する。因子の数や境界線は、実はまだ完全には確定していない。1990年代以降の研究で、5つの因子がそれぞれある程度遺伝することも分かってきたが、それでも「どこで線を引くか」には揺らぎが残る。

大事なのは、ビッグファイブが「今のところ最も再現性が高い枠組み」という立場にある、という点だ。絶対の真理として祭り上げられているわけではない。むしろ、新しいデータが出れば修正される余地を残している。これこそが科学の作法で、だからこそ信頼に足る。完成形を売りにしている診断の方が、よほど怪しい。

90年かけて言葉を集め、データを計算し直し、道具を磨いてきた結果が、今あなたが画面越しに受けられるビッグファイブ診断の中身だ。5つの軸がどれも幅広く、一見ありふれて見えるのは、それが誰かの思いつきではなく、長い歴史の底から浮かんできた形だからだ。

もっと詳しい研究データや論文は、ビッグファイブ 診断の科学的根拠のページにまとめてある。興味があればそちらも見てほしい。