貧乏ゆすりには、いくつかの顔がある
会議中や電車の中で、足を小刻みに揺らしている人がいます。本人は気づいていないことも多く、周りは「イライラしているのかな」「落ち着きがない人なのかな」と気になるかもしれません。
けれど、足を揺らす理由は一つではありません。長く座って体がこわばっている、退屈で体が動きを求めている、緊張や考えごとで手足に力が入っている、寒い、ただの癖になっている。こうした理由が重なって出てくることもあります。
よく見られるのは、デスクワークの途中、長い会議や講義、待ち時間、電話やオンライン会議の最中など、体を動かせないまま座り続ける場面です。逆に、歩き回ったり手を動かしたりできる場面では、あまり見かけません。
ここで挙げたのは、日常の場面を整理するための見方です。誰かの気持ちや性格を判定するチェック表ではありません。
体の事情か、場の事情か、癖かを分けて見る。
「イライラしているに違いない」と決めつけるより、その人が長く座り続けていないか、話が長くなっていないかに目を向けると、受け止め方がやわらぎます。
一つの癖で、性格は決まりません。ビッグファイブ診断では、複数の質問への回答から、普段の考え方や人との関わり方を振り返れます。
自分の五つの性格を測る(無料)座りっぱなしの脚にとっては、小さな運動になる
Morishimaらの実験では、健康な若い成人11人に3時間座ってもらい、片方の脚だけを断続的に小刻みに動かしてもらいました。動かさなかった脚では、ひざ裏の血管の広がりやすさ(血管内皮の働き)が座る前より下がりましたが、動かした脚では下がりませんでした。[1]
英国の女性を長年追跡した研究でも、座る時間が長いと死亡リスクが高い関連は、ふだん「そわそわ動くことが少ない」と答えた人に限って見られ、よく動くと答えた人では見られませんでした。[2]
ただし、どちらも「貧乏ゆすりをすれば健康になる」と示したものではありません。前者は少人数・短時間の実験、後者は自己申告にもとづく観察研究で、ほかの生活習慣の違いが影響している可能性も残ります。
それでも、長く座っているときに体が動きたがるのは、ある意味で自然な反応だと考えられます。
集中が切れてきたサインのこともある
Farleyらは、大学生に録画された講義を見てもらい、体のそわそわした動きと内容の記憶を調べました。時間がたつほど注意と記憶は下がり、そわそわした動きは増えていきました。動きが多い人ほど、注意の向き具合を考慮しても、講義の内容を覚えていない傾向がありました。[3]
この研究は、貧乏ゆすりが集中を妨げる原因だと示したものではありません。退屈や疲れで集中が途切れてくると、体の動きとして表に出やすい、という読み方もできます。
また、緊張しているときに体に力が入り、足が動きやすくなると感じる人もいます。面接の待合室や発表の直前などです。この場合は「落ち着きがない」というより、体が緊張を外に逃がしていると捉えるほうが実態に近いかもしれません。
会議や授業で貧乏ゆすりが増えてきたら、その人の性格より、場の長さや休憩の少なさを見直すきっかけになるかもしれません。
周りが気になるとき、自分がやめたいとき
貧乏ゆすりが問題になりやすいのは、机や床が揺れて周りに伝わるとき、静かな場で音が出るとき、あらたまった場で「落ち着きがない」と見られそうなときです。
伝えるとき:「足が揺れていると、机が少し揺れるみたい」と、性格ではなく起きていることを伝える。本人は気づいていないことが多いので、責める言い方は避ける。
自分がやめたいとき:無理に止めるより、30分に一度立ち上がる、つま先やかかとをゆっくり上げ下げするなど、周りに伝わりにくい動きに置き換える。
場をつくる側なら:長い会議に区切りを入れる。動きたくなるのは集中の限界が来ているサインかもしれない。
家族や同僚など身近な人の貧乏ゆすりが気になる場合は、その場で何度も注意するより、落ち着いているときに一度だけ話すほうが受け入れられやすくなります。「気づいたら教えてほしい」と本人に言われたら、目配せなど二人で決めた合図を使うのも一つの方法です。
落ち着かなさが強く、日常生活に支障が出ている、脚にむずむずした不快感があって眠れないといった場合は、癖ではなく体の不調が関わっていることもあります。気になるときは医療機関に相談してください。
一つの癖を、性格の答えにしない
「貧乏ゆすりをする人は短気」「神経質」といった言い方を見かけることがありますが、貧乏ゆすりと性格の特徴を直接結びつけた確かな研究は、今回調べた範囲では見当たりませんでした。
同じ人でも、長い会議では足が揺れ、好きなことをしている時間には揺れない、ということはよくあります。癖は、その人の全体ではなく、その場の状態を映していることが多いのです。
反対に、自分の貧乏ゆすりを指摘されて恥ずかしく感じたときも、「自分は落ち着きのない人間だ」と結論づける必要はありません。座り方や休憩の取り方を少し変えるだけで、目立たなくなることは多いものです。
貧乏ゆすりは、体と場の状態を知らせる小さなサインです。気になったときは相手を決めつけず、伝え方と場の工夫で付き合っていくと、お互いに過ごしやすくなります。
癖ひとつで、人柄を決めない
ビッグファイブ診断は、外向性や神経症傾向(情緒の揺れやすさ)を含む五つの傾向を振り返る道具です。貧乏ゆすりの理由や、相手の気持ちを判定する検査ではありません。
参考にした研究
- Morishima T, Restaino RM, Walsh LK, Kanaley JA, Fadel PJ, Padilla J(2016)Prolonged sitting-induced leg endothelial dysfunction is prevented by fidgeting. American Journal of Physiology - Heart and Circulatory Physiology, 311(1), H177–H182. DOI
- Hagger-Johnson G, Gow AJ, Burley V, Greenwood D, Cade JE(2016)Sitting time, fidgeting, and all-cause mortality in the UK Women's Cohort Study. American Journal of Preventive Medicine, 50(2), 154–160. 論文情報
- Farley J, Risko EF, Kingstone A(2013)Everyday attention and lecture retention: the effects of time, fidgeting, and mind wandering. Frontiers in Psychology, 4, 619. DOI