「利用されている」と感じるのは、どんなときか
困ったときだけ連絡してくる。頼みごとは多いのに、こちらが頼むと忙しいと言われる。手伝った成果は、いつの間にか相手のものになっている。そんな相手に「この人は自分を利用しているだけでは」とモヤモヤすることがあります。
人を利用する人の特徴としてよく挙がるのは、用があるときだけ親しげになる、お礼やお返しが少ない、断ると態度が冷たくなる、こちらの事情に関心がない、といったものです。
ただ、頼ってくる人がみな利用しているわけではありません。頼るのが苦手で一度にまとめて頼んでしまう人、お返しの仕方が分からない人、単に余裕がない時期の人もいます。
ここで挙げるのは、関係を見直すための目安です。相手の人柄や心の中を判定するチェック表ではありません。
やりとりの「偏り」が続いているかを見る。
相手を悪い人と決める前に、自分が何を差し出し、何が返ってきているかを、少し長い目で並べてみることが出発点になります。
一つの関係で、人柄は決まりません。ビッグファイブ診断では、複数の質問への回答から、普段の人との関わり方を振り返れます。
自分の五つの性格を測る(無料)人は「持ちつ持たれつ」を自然に期待している
社会学者のGouldnerは、助けてもらったら返す、恩を受けたら感謝するという「返報性の規範」が、ほとんどの社会の道徳に共通する原則だと論じました。そのうえで、一方だけが得をする「搾取」という関係も、この規範から捉え直しています。[1]
利用されていると感じるときのモヤモヤは、この「持ちつ持たれつ」の感覚が崩れたときの自然な反応です。心が狭いから生まれる感情ではありません。
一方で、返し方は人によって違います。物や手伝いで返す人もいれば、話を聞く、気にかけるといった形で返す人もいます。目に見えるお返しがないからといって、すぐに「利用された」と結論づけないほうが、関係を壊さずにすみます。
人を利用する人の心理:性格の差は「出し抜ける場面」で出やすい
Thielmannらは、770の研究をまとめて、分け合いや協力を試す経済ゲームでの行動と性格の関係を分析しました。性格と協力的な行動との関連は全体として小さめでしたが、相手を出し抜いて自分だけ得ができる場面で、性格の違いがもっとも表れやすいことが示されました。[2]
つまり、ふだんは感じのよい人でも、「ばれずに得ができる」「相手が断らない」と分かっている場面で、ふるまいの差が見えやすいということです。利用されやすい関係は、相手の性格だけでなく、断られない状況がそろったときに生まれやすいと言えます。
人を自分の目的のために操作しようとする傾向は、心理学では「マキャベリアニズム」と呼ばれ、ナルシシズム、サイコパシーと並ぶダークトライアドの一つとして研究されています。JonesとPaulhusは、この三つを27問で測る短い尺度を作り、4つの研究で妥当性を確かめました。[3]
ただし、こうした尺度は本人が答える質問紙で、身近な人を外から判定する道具ではありません。ダークトライアドが高い人との距離の取り方でも触れたように、ラベルを貼るより、自分がすり減っていないかを見るほうが役に立ちます。
利用されているか見分ける3つの問い
1. 頼みごとは、こちらが断れる形で来ているか:断ったときに不機嫌になる、罪悪感をあおる、ほかの人に話を広げる、といった反応が続くなら、偏りが大きいサインです。
2. 自分が困ったときに、相手は動いてくれたか:一度頼んでみると、関係の形が見えます。小さなことからで十分です。
3. 会うと、どんな気分が残るか:楽しかったより、疲れた、損をしたという気分が毎回残るなら、距離を見直す時期かもしれません。
見分けたあとは、いきなり関係を切る必要はありません。引き受ける量と範囲を、自分で先に決めておくのが現実的です。「今週はここまでならできる」「お金の貸し借りはしない」と線を引くと、相手が変わらなくても自分を守れます。
断るときは、理由を長く説明しなくてかまいません。「今回は引き受けられない」「その日は予定がある」と短く伝え、代わりに「来月なら少し手伝える」など、自分が出せる範囲を示します。相手の反応が変わらないなら、それ以上説得しようとせず、引き受ける回数を静かに減らしていけば十分です。
頼まれると断れない自覚がある人は、頼まれると断れない人の心理も参考にしてください。職場で仕事や成果を一方的に取られているなら、ひとりで抱えず、上司や信頼できる同僚に記録とともに相談することも大切です。
「利用する人」と決めつける前に
「人を利用する人は冷たい性格だ」と言われることもありますが、日常で誰かを利用するかどうかを、一つの性格の特徴で言い当てられる確かな研究は、今回調べた範囲では見当たりませんでした。
同じ人でも、余裕のある時期にはお返しを欠かさず、追い詰められた時期には頼るばかりになることがあります。反対に、自分が誰かに頼りっぱなしになっていないかを振り返るきっかけにもなります。
大切なのは、相手を裁くことより、やりとりの偏りに気づいて、自分の線を引くことです。そのほうが、続けたい関係も、離れたほうがよい関係も、落ち着いて選べるようになります。
関係の偏りで、人柄を決めない
ビッグファイブ診断は、協調性や神経症傾向(情緒の揺れやすさ)を含む五つの傾向を振り返る道具です。相手が自分を利用しているかどうかを判定する検査ではありません。
人を利用する人と、どうしても合わないと感じるなら。まず自分の性格を診断し、そのあと「あの人診断」で相手の様子を答えると、ふたりの性格のどこがぶつかりやすいのか、どう付き合えば楽になるかが分かります。
なぜあの人と合わないのかを知る(無料・登録不要)参考にした研究
- Gouldner AW(1960)The norm of reciprocity: A preliminary statement. American Sociological Review, 25(2), 161–178. DOI
- Thielmann I, Spadaro G, Balliet D(2020)Personality and prosocial behavior: A theoretical framework and meta-analysis. Psychological Bulletin, 146(1), 30–90. DOI
- Jones DN, Paulhus DL(2014)Introducing the Short Dark Triad (SD3): A brief measure of dark personality traits. Assessment, 21(1), 28–41. DOI