独り言は一つではない。四つの働きに分かれる

「独り言が多い人」とまとめてしまうと、その人が何をしているのかが見えなくなる。大人の独り言の量をはかる尺度を作った研究では、つぶやきは四つの働きに分かれていた。

一つめは自己管理。「次はこれ」「あと五分」と、これからやることを声に出す。二つめは自己批判。「またやった」「なんでこうなるかな」と、済んだことを責める。三つめは自己強化。「よし」「いまのはうまくいった」と、できたことを自分で認める。四つめは社会的評価。「あの言い方、まずかったかな」と、人とのやりとりを後から確かめる。

同じ「独り言が多い」でも、自己管理が多い人と自己批判が多い人では、起きていることがまるで違う。前者は作業が前へ進み、後者は同じ場面が何度も戻ってくる。回数を数えても、この差は出てこない。

独り言が増える場面にも、共通点がある。手順が多い、途中で邪魔が入る、慣れていない、締切が近い。どれも、やることの順番を頭の中だけで保っておくのが難しくなる場面だ。逆に、慣れた作業を落ち着いて進めているときは、同じ人でもつぶやきは減る。「独り言が多い人」というより「独り言が出る場面の多い人」と言ったほうが、実態に近いことがある。

中身を仕分けるには、一日だけ書き留めればいい

つぶやきが出たときに、内容ではなく種類だけをメモする。「次」「責め」「よし」「あの人」の四つで足りる。一日ぶんを並べると、自分の独り言がどこに偏っているかが、思っていた印象とずれていることが多い。

声に出すと、手のほうが動きやすくなる

独り言は、頭の中で済むはずのことを口に出している無駄な癖のように見える。だが、声に出したときだけ変わるものがある。

探し物の実験がある。画面に並んだ品物の中から目当てのものを見つける課題で、探しているものの名前を声に出しながら探すと、黙って探すより早く見つかった。言葉が、見るほうの準備を先に変えていた。

ただし条件がついた。名前とその見た目の結びつきが強いときだけ早くなり、思い浮かべた姿と実物がずれているほど、声に出すことがかえって邪魔になった。「鍵」と言えば鍵は見つかりやすいが、自分でも見た目が曖昧なものを口にすると、逆に遅くなる。

だから、作業中のつぶやきは止めなくていい。手が止まったときほど出やすいのは、理にかなっている。声に出すことは、注意の的をひとつに絞る手続きに近い。

この結果には、見落とされやすい含みがもう一つある。声に出して助かるのは、自分がすでに言葉と中身を結びつけられていることだけだという点だ。名前を口にした瞬間に、その言葉が指すものが少しだけ浮かび上がる。だから、手順や品物のようにはっきりしたものほど効く。まだ言葉になっていない悩みを何度も口に出しても、同じようには進まない。

工事現場や鉄道で使われている指差し呼称も、外から見れば形はよく似ている。やることを声に出して、いま何を見ているかを一つに固定する。独り言を「気が散っている証拠」と受け取るのは、順番が逆なのかもしれない。

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効き目を決めているのは、量ではなく言い方

独り言のうち、自分を落ち着かせるために出るものは、言い方ひとつで効き目が変わる。

七つの実験(のべ585人)を重ねた研究が、人前で話す直前の緊張を扱っている。片方のグループは「私はなんでこんなに緊張しているんだろう」と一人称で自分に語りかけ、もう片方は自分の名前や「あなた」を使って「〇〇は、なんでこんなに緊張しているんだろう」と語りかけた。

名前や「あなた」を使ったほうが、本番の不安が低く、話しぶりの評価も高く、終わったあとに何度も思い返す時間も短かった。人前が特に苦手な人でも、向きは同じだった。一人称は自分の中に入り、名前は自分から一歩離れる。同じ内容でも、言葉が立つ位置が変わる。

この言い換えは、声に出しても頭の中でやっても構わない。変えているのは音量ではなく、自分を呼ぶ言葉のほうだからだ。

ただし、名前で呼ぶことは自分を突き放すことではない。実験で下がったのは不安と、終わったあとに思い返す時間であって、その場面がどうでもよくなったわけではない。近くで見ていた自分を、少しだけ後ろへ下げて、同じ出来事をもう一度見る。それだけの操作だと考えたほうが、続けやすい。

独り言をやめるより先に、言い方を変えるほうが手が早い。

独り言が多いのは、性格の一言では決まらない

「独り言が多い=内向的」「独り言が多い=不安が強い」と説明されることがある。ここは慎重に見たほうがいい。

独り言の量をはかる尺度を作った研究でも、頻度そのものは、ビッグファイブのどれか一つの言い換えにはならなかった。独り言は性格の表れというより、その人が置かれている場と、いま何をしているかで増え減りするものに近い。一人でいるか、締切が近いか、慣れない作業か。同じ人でも、その日の条件で量は変わる。

性格が効いてくるのは、量ではなく中身のほうだ。落ち込みやすい人は自己批判のつぶやきが増えやすく、段取りを立てる人は自己管理のつぶやきが増えやすい。ただしこれも傾向で、独り言を聞いてその人の性格を当てられる、という話ではない。

逆に言えば、独り言が多いこと自体を直す必要はない。直す値打ちがあるのは、中身が自己批判に偏っているときだけだ。

もう一つ、よく混ざるものがある。独り言と、頭の中で言葉が回り続けることは別だ。声に出しているかどうかは、この区別の役に立たない。夜、布団の中で声も出さずに同じ場面を再生している人は、独り言としては一度も数えられないのに、中身は自己批判そのものになっている。数えるなら、声ではなく中身を数えたほうがいい。

気になるときに、どこを見るか

自分のつぶやきが気になっている人へ。まず、量を減らす目標は立てないほうがいい。減らそうとすると、作業を助けている自己管理のつぶやきまで一緒に止まる。

見るのは中身だ。自己批判が目立つなら、そこだけを言い換える。「またやった」を、自分の名前を使って「〇〇は、いつも同じところで詰まるね」に替える。責めるのをやめるのではなく、誰の位置から言うかを変える。

人がいる場所で出てしまうのが困る、という場合は、声を我慢するより出口を替えるほうが早い。手元の紙に短く書く。書くのは声より遅いが、注意を一点に絞る働きは残る。

使いどころを一つに決めておくと身につきやすい。会議の前、電話をかける前、送信ボタンを押す前。緊張が先に来る場面はだいたい決まっているので、その手前にだけ一言を置く。毎回やろうとすると続かない。

周りの人へ。独り言が多い人は、返事を求めていないことがほとんどだ。「うるさい」と言う前に「今のは私に言った?」と一度だけ確かめると、その人も自分が声に出していたことに気づく。たいていは、それで音量が下がる。

ここから先は、性格の話ではなくなる

独り言そのものは大人にもごく普通にある。ただし、聞こえてくる声に答えている、場面をまったく選べない、内容が自分を追い詰めるほど苦しい——このいずれかが続くときは、性格で説明する話ではない。診断の範囲外なので、医療機関や相談窓口を頼ってほしい。

自分のつぶやきが、どこへ偏りやすいかを知る

独り言の中身が自己批判に寄りやすいかどうかは、性格の傾き方とゆるく結びついています。自分がどの向きに転びやすいかを見る材料として、ビッグファイブを測ってみてください。

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参考にした研究

  • Brinthaupt TM, Hein MB, Kramer TE(2009)「The self-talk scale: development, factor analysis, and validation」PubMed
  • Lupyan G, Swingley D(2012)「Self-directed speech affects visual search performance」PubMed
  • Kross E, Bruehlman-Senecal E, Park J, et al.(2014)「Self-talk as a regulatory mechanism: how you do it matters」PubMed