「好き」の中身が違う、ということ

「相手のことが好き」という一言の中に、実はいろんな感情が混ざっている。

ドキドキして胸が苦しいような好き。一緒にいると安心する好き。相手の役に立ちたいという好き。もっと自分を見てほしいという好き。冷静に相手を分析した上での好き。

全部「好き」だけど、中身は全然違う。そして、その「中身」は人によって傾向がある。

これに気づいたのは、カナダの心理学者ジョン・アラン・リー(John Alan Lee)でした。リーは1973年の著書『The Colours of Love(恋愛の色)』の中で、恋愛には色があると主張しました。

好きの色は、人によって違う
そして、自分の色を知ることで、
恋愛のトラブルの多くが説明できる。

恋愛には色がある——リーの恋愛色彩論

リーが「色」という比喩を使ったのには理由があります。

絵の具には、混ぜられない三原色(赤・青・黄)があります。これら三原色を混ぜると、二次色(紫・緑・オレンジ)ができる。さらに混ぜると、無限の中間色が生まれる。

リーは、恋愛もこれと同じ構造だと考えました。

  • 恋愛にも三原色(3つの基本的な愛し方)がある
  • 三原色を組み合わせると、別の3つのスタイル(二次色)ができる
  • ほとんどの人は複数の色を持ち、その配合で独自の「恋愛の色」になる

このモデルの面白いところは、「正しい恋愛」を一つだけ定義していないことです。情熱的な恋愛が正解でも、穏やかな恋愛が正解でもない。それぞれが独自の「色」であって、どれも本物の恋愛だとしています。

リーの理論は、その後Hendrick & Hendrick(1986)によって「恋愛態度尺度(Love Attitudes Scale)」として標準化され、世界中で研究に使われています。日本でも、国語・英文学者の今村楯夫が「愛のスタイル」として紹介し、恋愛心理学の定番フレームワークの一つになっています。

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6つの恋愛スタイル

リーが定義した6つの恋愛スタイルを、一つずつ見ていきます。

3つの一次色(基本的な愛し方)

情熱型(Eros)

一目惚れ、強い身体的の魅力、心拍数が上がるような恋愛。相手の外見や存在そのものに惹かれるタイプ。付き合い始めの熱烈さを長く維持する傾向がある。

深い情熱と一体感

情熱が冷めると急に関係が終わりやすい

遊び型(Ludus)

恋愛を楽しむタイプ。一人の相手に縛られたくなく、複数の関係を同時に持つことも珍しくない。ゲーム感覚で恋愛に取り組むが、それは冷たいという意味ではない。恋愛そのものを楽しんでいる。

執着せず、恋愛を純粋に楽しめる

相手に「真剣じゃない」と映ることがある

友情型(Storge)

恋愛感情より友情から始まる恋愛。長い時間をかけて相手を知り、徐々に愛情が育つタイプ。ドラマチックな展開は少ないが、関係は長く安定する。

信頼をベースにした安定した関係

恋愛としてのドキドキ感が物足りなく感じることがある

3つの二次色(混合された愛し方)

現実型(Pragma)

情熱型+遊び型の混合。理性的に相手を選ぶタイプ。「この人といると自分に何がもたらされるか」を現実的に評価する。条件や適合性を重視するので、いわゆる「お見合い」に近い感覚。

冷静に判断できるので、ミスマッチが少ない

ロマンチックさに欠けると感じる相手もいる

執着型(Mania)

情熱型+遊び型が行き過ぎた状態。相手に執着し、嫉妬深くなりやすい。不安と愛情が入り混じった強い感情で、相手の全てを知りたい・独占したいという欲求が強い。

相手への深い愛情と献身

嫉妬や依存が強くなりすぎると関係が壊れやすい

献身型(Agape)

友情型+情熱型の混合。無条件の愛。自分より相手を優先し、相手の成長を自分のことのように喜べる。見返りを求めない愛し方で、宗教的な「愛(agape)」の概念に由来する。

自己犠牲を厭わない深い愛情

自分の気持ちを後回しにしすぎて、疲弊することがある

自分がどれか一つ、と考えるより、「どれが一番強いか」で捉えた方が実態に近いです。大多数の人は2〜3のスタイルを組み合わせて恋愛しています。

恋愛スタイルは一つじゃない——組み合わせの話

リーの理論で面白いのは、スタイル同士の相性が考えられていることです。

たとえば、情熱型(Eros)同士のカップルは、最初は強烈に惹かれ合う。でも、両方とも情熱が原動力なので、その火が小さくなったときに関係をどう維持するかが課題になる。

逆に、情熱型の人が献身型の人と出会った場合。情熱型は自分の感情をストレートにぶつけ、献身型はそれを受け止める。この組み合わせは、一方通行になりやすい。献身型が尽くしすぎて、自分の感情を見失う。

そして一番問題になりやすいのが、執着型(Mania)と遊び型(Ludus)の組み合わせです。

執着型 × 遊び型——最も危険な組み合わせ

執着型の人は「相手の全てを知りたい」「自分だけを見てほしい」と強く願う。一方、遊び型の人は「束縛されたくない」「自由に楽しみたい」。

執着型の人が不安になればなるほど、遊び型の人は距離を取りたくなる。距離を取られると、執着型の人はさらに不安になる。この悪循環は、心理学で「愛着の追いかけっこ(Pursuer-Distancer Cycle)」と呼ばれています。

スタイルの不一致は「どちらが悪い」という話ではありません。ただ「色が違う」だけ。お互いの色を知っていれば、「相手がそういう愛し方をしているだけだ」と受け止めやすくなる。

自分の愛し方を知る意味

恋愛スタイルを知ると、今まで説明できなかったことが言葉にできるようになります。

「なぜ自分はいつも同じタイプの人を好きになるのか」——それは、あなたの恋愛スタイルが特定の相手を引き寄せているからかもしれない。執着型の人は、冷たい態度を取る相手に惹かれやすい。それは「追える相手」だから。

「なぜ別れがいつも同じパターンになるのか」——あなたのスタイルと相手のスタイルの組み合わせが、同じ結末を生んでいるのかもしれない。

「なぜ相手はあんな言い方をするのか」——相手の愛し方があなたと違うだけかもしれない。あなたが情熱型で相手が友情型なら、「もっと情熱を見せて」vs「落ち着いた関係がいい」のズレが起きる。

自分の「好きの色」を知ることは、
恋愛のトラブルの半分
説明できるようになる、ということ。

恋愛スタイルは絶対に変わらないものではありません。年齢や経験、恋愛相手によっても変化する。20代の頃は情熱型だった人が、30代で友情型に近づく。逆に、長く安定した関係の中で執着型の要素が強くなることもある。

大事なのは、「正しい恋愛」を目指すことではなく、自分のスタイルを知った上で、自分に合う相手や付き合い方を選ぶことです。