人事・労務って、実際に何をしている仕事なのか
人事・労務と聞いて何を思い浮かべるか。「採用面接をする人」「給料を計算する人」「社員の愚痴を聞く人」。どれも人事の一部だが、全部ではない。
人事・労務の仕事を一言で言うなら、「社員が働きやすい環境を制度として作り、守ること」だ。商品を作るのは事業部門で、売るのは営業。人事・労務は「社員」という対象に対して、制度を設計し、法令を遵守し、トラブルを防ぐ。他の職種が「モノ」や「カネ」を扱うのに対して、人事・労務は「ヒト」を扱う。そこがこの仕事の一番の特徴だ。
「ヒトを扱う」というのは、案外ピンとこないかもしれない。もう少し具体的に言うと、社員が入社してから退職するまでの全ライフサイクルに関わるのが人事・労務だ。入社時の雇用契約、配属、等級の決定。日々の勤怠管理、有給休暇の付与、社会保険の手続き。毎月の給与計算、年1回の評価面談、昇進・昇格の判断。メンタルヘルスの不調があれば休職手続きと復帰支援。退職する時は離職票の発行と雇用保険の手続き。社員が会社にいる間、ずっと裏側で動いているのが人事・労務の仕事だ。
日本の企業で人事・労務と呼ばれる職種は、会社の規模によって担当範囲が大きく違う。大企業では人事部が採用、労務、教育・研修、評価制度、コンプライアンスなどのチームに分かれていて、それぞれ専門性を持って対応する。例えば、採用チームは新卒採用と中途採用で担当が分かれていて、さらにエンジニア採用や営業職採用など職種別に担当がつくこともある。一方で中小企業では、人事担当者が採用も労務管理も社内研修も社会保障も兼務することがある。「人事」という肩書きでも、実態は会社によってかなり違う。
1日の仕事の流れは担当領域によって違うが、共通する要素を挙げてみる。
採用活動は人事の目に見えやすい仕事の一つだ。求人広告の出稿、エントリーシートの選考、面接の日程調整、面接の実施、内定出し、内定者フォロー。新卒採用なら年間を通じた長期的なプロセスになるし、中途採用なら随時発生する。最近はダイレクトリクルーティングやリファラル採用など、従来の求人広告以外の手法も増えている。採用担当は「会社の顔」として学生や転職希望者と向き合うため、コミュニケーション能力が直接問われる。
採用の裏側には、もっと戦略的な仕事がある。年間の採用計画の策定、採用予算の管理、採用チャネルの効果測定、競合他社の採用動向の調査。単に「人を採る」だけでなく、「どんな人を、どのタイミングで、いくらのコストで採るか」を設計する。採用は会社の未来を決める投資だから、経営陣と密に連携しながら進める必要がある。
採用の難しさは、日本人材の少子化によって年々増している。応募者が集まらない中で、いかに自社の魅力を伝えるか。求人広告の出稿先、説明会の内容、会社紹介のブランディング。SNSを活用した採用広報も一般的になった。採用は「人が足りないから採る」という単純な作業ではなく、会社の魅力を設計して発信するマーケティングの側面も持っている。
労務管理は地味だが最も重要な業務の一つだ。雇用契約の締結、社会保険の手続き、給与計算、勤怠管理、有給休暇の管理。これらは一つでもミスをすると社員の生活に直結する。社会保険料の計算を間違えれば、社員の手取りが変わる。雇用契約の記載漏れがあれば、後で労使トラブルになる。労務管理は「正確さ」が命の仕事だ。
労務管理の厄介なところは、やっていることが見えにくいことだ。毎月給与が正しく振り込まれているのは、誰かが正確に計算しているから。社会保険の手続きがスムーズなのは、誰かが期限を守って届出をしているから。有給休暇がちゃんと取れるのは、誰かが残日数を正確に管理しているから。全部が上手くいっている時は誰も気にしないが、一度ミスが起きると一気に信頼を失う。
労務管理の業務量は、会社の規模に比例して増える。社員100人の会社と1000人の会社では、社会保険の手続きだけで数倍の差がある。入社と退社が月に数件の会社なら手作業でも対応できるが、月に数十件ある会社ならシステム化が必要になる。労務管理の担当者は、業務量の増大に合わせて効率化を図る役割も担う。給与計算システムの導入、勤怠管理ツールの選定、社会保険電子申請の活用。ITリテラシーも求められるのはこのためだ。
評価制度の設計と運用がある。社員の頑張りをどう評価し、どう報いるか。目標管理制度(MBO)、360度評価、等級制度、報酬体系。これらを設計し、運用し、定期的に見直す。評価制度は社員のモチベーションに直結するため、慎重に設計する必要がある。不公平だと感じた社員はモチベーションを下げるし、最悪の場合は退職する。「評価」という言葉はシンプルだが、その裏には膨大な調整と検討がある。
評価制度の設計は、一度作って終わりではない。会社のフェーズが変われば制度も変える必要がある。10人の会社と100人の会社と1000人の会社では、評価制度のあり方が根本的に違う。事業の方向性が変われば、評価するべきポイントも変わる。人事は常に「今の制度が会社の成長を支えているか」を問い続ける。
評価制度を巡る社内政治も、人事のストレス源の一つだ。経営陣から「もっと厳しく評価して」と言われる一方で、現場から「評価が厳しすぎる」と不満が出る。ある部門長は「うちの部門はもっと高い評価を受けるべきだ」と主張し、別の部門長は「なぜあの部門の方が評価が高いのか」と抗議する。これらの間を取りながら、全体として公平な制度を維持するのが人事の役割だ。誰の顔色も気にせず、制度を淡々と運用する強さが必要だ。
社内研修・教育も人事の役割だ。新入社員研修、管理職研修、コンプライアンス研修、ハラスメント防止研修。研修の企画、講師の手配、カリキュラムの作成、効果測定。最近はeラーニングを活用する企業も増えているし、オンラインと対面を組み合わせたハイブリッド型の研修も一般的になった。研修は一度やって終わりではなく、毎年継続して実施する必要がある。
研修の企画には、社員の成長ニーズの把握と予算の管理が含まれる。「今年はどの階層にどんな研修が必要か」「外部講師に頼むべきか、社内で作るべきか」「予算はいくらまで使えるか」。これらを経営陣と相談しながら決める。効果が見えにくい研修に予算を割くことに対して、経営陣から「本当に必要か」と疑問を出されることもある。研修の効果を数字で説明するのも人事の仕事だ。
メンタルヘルス対応も人事の重要な業務だ。社員が体調を崩した時の休職手続き、復帰支援、産業医との連携、ストレスチェックの実施。日本の職場ではメンタルヘルスの問題が増えていて、人事は社員の心身の健康を守る役割も担う。これは「思いやり」だけでなく、労働安全衛生法に基づく法的な義務でもある。線引きが難しく、精神的な負担も大きい業務だ。
メンタルヘルス対応の難しさは、正解がないことだ。同じ「休職3ヶ月」といっても、ある社員は2ヶ月で復帰でき、別の社員は半年かかる。復帰後の勤務時間の調整、配属先の変更、上司との関係の再構築。すべてを case by case で判断しなければならない。産業医の意見を聞きつつ、本人の状態と会社の事情のバランスを取る。この判断が毎回正しい保証はない。
メンタルヘルス対応には、秘密守製のジレンマもある。本人から相談を受けた内容を、どこまで上司に共有するか。共有しなければ職場の調整ができないが、共有すれば本人の信頼を失う。「誰に何を話していいかわからない」という状態に陥ると、対応が全部止まってしまう。この線引きに常に悩むのがメンタルヘルス担当の人事だ。
労働法規の対応が人事の専門性の核になる。労働基準法、労働契約法、労働組合法、雇用保険法、健康保険法、厚生年金保険法。これらの法律は頻繁に改正される。36協定の届出、就業規則の改定、時間外労働の上限管理。法改正があったら、就業規則を変え、社内に周知し、運用を変える。この一連の作業を正確に行うのが人事・労務の専門性だ。
労働法規の改正はここ数年、目まぐるしいペースで続いている。2019年の働き方改革関連法、2024年の分割確認勤務の解禁、同一労働同一賃金の制度化。改正があるたびに、人事は就業規則を見直し、社内の運用フローを変え、全社員に周知する。この作業が終わる頃にまた次の改正が来る。法律を追うだけでも一つの仕事になるレベルだ。
労働法規の対応で人事が一番気をつけなければならないのは、「知らなかった」では済まないことだ。法改正があったことを知らずに旧い就業規則を使い続けると、知らぬ間に法令違反の状態になっている。だから人事は常に情報収集を怠らない。労働局からの通知、社労士会のセミナー、人事系のニュースメディア。法改正の情報をいち早くキャッチし、自社への影響を分析し、対応策を立てる。このスピード感も人事の専門性の一つだ。
見落とされがちだが、コンプライアンスとリスク管理の比重も大きい。ハラスメントの相談対応、内部告発の受け付け、労働基準監督署の是正勧告への対応。トラブルが起きた時に、法的な観点から対応を判断し、経営陣に助言する。トラブルが表ざたになれば会社の評判に関わるため、慎重かつ迅速な対応が求められる。
ここ数年で特に増えているのが、ハラスメント関連の対応だ。パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメント、アルコールハラスメント。相談窓口への対応、事実調査、当事者へのヒアリング、処分の検討、再発防止策の策定。一度の相談対応でも、数週間から数ヶ月かかることがある。しかも、当事者双方の言い分が食い違うことが多く、事実関係の把握だけでも難航する。
このハラスメント対応は、人事にとって特に精神的な負担が大きい。加害者とされる社員からは「そんなつもりじゃなかった」と反論され、被害者とされる社員からは「もっと早く対応してほしかった」と責められる。どちらの気持ちもわかるだけに、間に立つ人事は板挟みになる。しかも、事実関係がはっきりしないケースも多く、「これはハラスメントと言えるのか」「指導の範囲内か」の線引きに迷うことも多い。
組織開発やタレントマネジメントという領域もある。会社の将来に必要な人材像を描き、今の社員の育成計画を立てる。後継者育成、キーパーソンの離職防止、部署間の人材配置の最適化。これは人事の中でも特に戦略的な領域で、経営陣と同じ目線で組織の未来を考える必要がある。
タレントマネジメントは最近、日本企業でも注目されている領域だ。どの社員がどんなスキルを持っていて、次のステップに何が必要なのか。誰をどのポジションに配置すれば、組織のパフォーマンスが最大化するのか。こうした判断には、社員一人ひとりの成長を見守る視点と、組織全体を俯瞰する視点の両方が必要だ。人事の中でもやりがいが大きい反面、難易度が高い領域だ。
最近では、人事データを分析して意思決定を支援する「ピープルアナリティクス」という領域も台頭している。社員のエンゲージメント調査の結果、離職率のデータ、採用の効果測定、研修の受講履歴。これらのデータを統計的に分析し、「何が離職を防ぐのか」「何が生産性を上げるのか」を見つける。ピープルアナリティクスは、人事の中でも特にデータ志向の強い領域で、協調性よりも分析力が問われる。データ分析が好きな人は、この方向に進むと面白いかもしれない。
日本の人事・労務職の年収は、企業規模や業界によって幅があるが、おおむね350〜600万円程度。大企業の人事部門で専門性を高めれば700万円を超えることもある。社会保険労務士(社労士)の資格を持っていると、労務管理の専門性が高く評価され、キャリアの幅が広がる。外資系企業では、HRビジネスパートナー(HRBP)として人事戦略に深く関わるポジションもあり、年収800万円以上になることもある。
人事・労務の特徴は、扱う対象が「人」であることだ。制度は社員一人ひとりの生活に影響する。給与計算のミスは生活費に直結する。評価制度の不公平さはモチベーションを削ぐ。採用の判断はその人の人生を変える。この責任の重さと向き合えるかどうかが、人事・労務に向いているかどうかの分かれ目になる。
もう一つ、人事ならではの難しさがある。それは「自分の成果が見えにくい」ことだ。営業なら売上が数字として残る。エンジニアならプロダクトが形として残る。でも人事の仕事は、「問題が起きないこと」が成果になることが多い。労務管理が正確ならトラブルは起きない。メンタルヘルス対応が適切なら長期休職は減る。評価制度が公平なら不満は出ない。「何も起きていない」状態を維持するのが人事の成果だが、それは周りからは見えにくい。この見えにくさと付き合えるかも、この職種の一つの壁だ。
それでも人事の仕事を選ぶ人には、独特のやりがいがある。他の職種では味わえない「人の成長に寄り添う」経験だ。自分が採用した人が会社の戦力になる。自分が設計した制度のおかげで社員が働きやすくなったという声を聞く。メンタルヘルスで苦しんでいた社員が復帰して、また笑顔で働いているのを見る。これらは数字では測れないやりがいだ。成果が見えにくい反面、人の人生に関わる仕事の重みというものがある。
人事のもう一つの特徴は、他のあらゆる職種と関わることだ。会社にあるすべての部署の社員と接点がある。営業の人もエンジニアも経理も製造も。いろいろな仕事をしている人の話を聞けるのは、人事ならではの面白さだ。视野が広がるし、「この会社全体はどう動いているのか」が見えてくる。この全体像を見られるポジションは、実はそれほど多くない。
大企業になると、人事の中でも役割がさらに細分化される。採用チーム、労務チーム、教育・研修チーム、評価・報酬チーム、組織開発チーム、ダイバーシティ推進チーム。さらに、HRBP(人事ビジネスパートナー)として特定の事業部に属し、その事業部の人事課題に特化して対応する役割もある。HRBPは事業部の現場に密着する分、経営陣との距離も近い。人事部門の中でも特にやりがいが大きいポジションの一つだ。
ビッグファイブで見る人事・労務に向いている性格
人事・労務に向いている人を「人が好きな人」「優しい人」と片付けるのは簡単だ。でも実際は、法令遵守の厳格さと社員への配慮のバランスを取りながら、制度を設計・運用する力が中心にある。ビッグファイブの5つの因子が、人事・労務のプロセスのどの部分に影響しているのかを整理する。
ビッグファイブの研究データを見ると、人事・労務の職種との相関を示すベータ値は、協調性が0.24、誠実性が0.20、外向性が0.18、開放性が0.10、情動安定性が0.12となっている。つまり、協調性が最も強く、次いで誠実性が重要だ。一つずつ見ていこう。
協調性が高い人:社員一人ひとりに寄り添う
協調性が高い人は、他人の気持ちに敏感で、相手の立場に立って考えるのが得意だ。この特性は人事・労務において最も重要な素養の一つだ。メンタルヘルスで休職している社員の復帰支援をする時、その社員の不安や戸惑いに共感しながら、無理のないペースで職場復帰をサポートする。ハラスメントの相談を受けた時、相談者の気持ちを第一に受け止めながら、冷静に事実関係を確認する。採用面接で応募者の緊張をほぐし、本当の良さを引き出す。
日本の職場では、社員がなかなか本音を言わないことが多い。「大丈夫です」と言いながら実は限界が近い人を見抜くには、相手の言葉の裏にある感情を読み取る力が必要だ。協調性の高さは、この「言外のメッセージ」を受け取る力に直結する。毎朝「お疲れ様です」と挨拶してくる社員の声のトーンがいつもと違うことに気づく。1on1の面談で「特に問題ありません」と言う社員の表情が硬いことに違和感を持つ。こういう小さなサインを見逃さないのが、協調性が高い人の強みだ。
もう一つ、協調性が高い人に共通する特徴がある。それは「人を安心させる雰囲気」を持っていることだ。話しかけやすい、否定しない、真剣に聞いてくれる。こういう雰囲気を持っていると、社員は本音を話しやすくなる。結果として、問題が大きくなる前にキャッチできる。人事にとって「社員が本音を話してくれるかどうか」は、仕事の質そのものに関わる。協調性の高さは、この土台を作る。
評価面談でも協調性は活きる。ただ評価の数字を伝えるだけでなく、「最近どう?」「前のプロジェクトは大変だったと思うけど」と相手の状況に寄り添って話を聞ける。そうすると社員も本音を話しやすくなり、評価のフィードバックが建設的な対話になる。評価面談が一方通行の通知で終わってしまう人事担当者は多いが、協調性が高い人は自然に対話を作れる。
ただし、協調性が高すぎると別の問題が出てくる。これについては後で触れる。
誠実性が高い人:法令遵守と正確な事務処理
人事・労務は、ルールを守ることが仕事の半分を占める。労働基準法に違反すれば、会社に罰金が科される可能性がある。社会保険の手続きをミスすれば、社員に損害を与える。有給休暇の残日数の管理を間違えれば、労使トラブルの原因になる。誠実性が高い人は、こうしたルール遵守と正確な事務処理を確実に行う。
就業規則の改定、36協定の届出、雇用保険の資格取得・喪失の手続き。これらは全部「期限内に正確に」やらなければならない。期限を過ぎれば罰金が発生したり、社員に不利益が生じたりする。誠実性の高さは、こうした期限管理と正確な事務処理の基盤になる。
誠実性が高い人は、決められた手順を省略しない。社会保険の手続きで「たぶんこれでいいだろう」と自己判断せず、法令と照らし合わせて確認する。給与計算で「前月と同じだから大丈夫だろう」と飛ばさず、毎月きちんと計算する。36協定の届出を「来週でいいや」と先延ばしにせず、期限内に提出する。こういう地道な確かさの積み重ねが、人事の信頼を作る。
また、評価制度の運用においても誠実性は重要だ。評価の不公平さは社員の不信感を生む。すべての社員に同じ基準を適用し、評価の根拠を明確に記録する。この地道な作業が、評価制度への信頼を支えている。評価の記録をいい加減にしていると、後で社員から異議申し立てが来た時に説明できない。誠実性の高い人は、記録を正確に残すから、いざという時にちゃんと説明できる。
外向性が中程度以上の人:社内外を動かす
人事は社内のさまざまな人と関わる仕事だ。採用なら経営陣に欲しい人材の要件を確認し、現場の部門長と面接日程を調整し、応募者とコミュニケーションを取る。社内研修なら受講者の意見を聞き、講師と打ち合わせをする。メンタルヘルス対応なら、本人、上司、産業医、外部のカウンセラーの間を取り持つ。常に誰かと話し、合意を形成する。
外向性が中程度以上ある人は、こうした人との関わりをエネルギーに変えられる。「また打ち合わせか」と思うのではなく、「いろいろな人の話が聞けて面白い」と感じられる。人事は人との関わりが圧倒的に多い職種なので、この感覚を持っているかどうかは大きい。
採用活動では特に外向性が活きる。説明会で学生の前に立つ、面接で応募者と話す、内定者と懇親会で交流する。これらが苦にならない人は、採用担当としての適性が高い。逆に、人前に出るのが苦手で面接が緊張する人は、採用業務で疲弊してしまう。人事の中でも採用と労務で求められる外向性のレベルが違うので、自分の外向性の程度に合わせて担当領域を考えるのも一つの手だ。
外向性が高い人事のもう一つの利点は、社内の変化を促しやすいことだ。新しい制度を導入する時、現場の理解を得るために説明会を開いたり、各部署のキーマンに個別に説明に行ったりする。この「社内営業」の役割を、外向性が高い人は自然と果たせる。いくら良い制度を設計しても、現場に浸透しなければ意味がない。浸透させるためには、いろいろな人に声をかけ、話し、納得してもらう必要がある。外向性の高さは、この実装フェーズで特に威力を発揮する。
外向性が高い人は、社内の人脈も広くなりがちだ。いろいろな部署の人と雑談するうちに、「あの部署は人が足りていないらしい」「あのチームリーダーは部下の育成に悩んでいるらしい」といった生の情報が入ってくる。こうした情報は、組織開発やタレントマネジメントの判断材料になる。人事は社内の空気を肌で感じている必要がある。
開放性が中程度以上の人:制度を変える柔軟さ
人事の制度は昔ながらのやり方に固執していると、時代遅れになる。働き方改革によるテレワークの導入、ジョブ型雇用への移行、ダイバーシティ推進、フィードバック文化の定着。日本の働き方はこの数年で大きく変化していて、人事はその変化を制度として実装する役割を担う。
開放性が高い人は、新しいやり方に抵抗がない。「今までこうやってきたから」という理由だけで過去の制度を維持するのではなく、「もっと良い方法があるかもしれない」と考えられる。他社の事例や海外の制度に関心を持ち、自社に合う形にアレンジして導入する。この柔軟さは、特に人事戦略を担うポジションで求められる。
具体例を挙げよう。在宅勤務の制度を導入する時、開放性が低い人は「管理できないからダメだ」と最初から否定する。開放性が高い人は、「どういうルールならうまくいくか」「どの部署から試験的に始めるか」と前向きに考える。結果として、開放性が高い人事がいる会社は、新しい働き方への対応が早くなる。優秀な社員は柔軟な働き方を求めるから、制度の更新が遅い会社は人材を逃す。
神経症傾向が低めの人:他人の感情に触れてもブレない
人事は他人の感情に触れる機会が非常に多い。メンタルヘルスで苦しんでいる社員の相談に乗る。ハラスメント被害者の辛い話を聞く。退職者の不満を聞く。リストラの対象者に面談する。こうした場面で、相手の感情に共感しつつも、自分自身が押しつぶされない精神的な強さが必要だ。
神経症傾向が低めの人は、他人の感情に触れても、それに巻き込まれすぎずに冷静な判断を保てる。泣いている社員のそばにいても、「この人は今どういう状態で、何が必要なのか」を冷静に分析できる。これができないと、人事担当者自身がメンタルをやられてしまう。人事職の燃え尽き症候群(バーンアウト)は実はかなり多くて、その原因の一つが感情的な負荷の蓄積だ。
神経症傾向が低めというのは、「冷たい」ということではない。共感しつつも、感情に飲み込まれないということだ。相手の辛い話を聞いて、「それは辛かったですね」と共感しつつも、「では、具体的にどうサポートしましょうか」と次のステップに進められる。この「共感と行動の切り替え」ができる人が、人事・労務では長く活躍できる。
以上の5因子の傾向をまとめると、人事・労務に最も向いているのは「協調性が高くて誠実性も高く、感情的にブレにくい人」ということになる。ただ、すべての因子が完璧に当てはまる必要はない。自分の因子の強みを活かせる担当領域を見つけることが、キャリアの方向性を考える上でのポイントになる。
一つ気をつけておきたいのは、因子の組み合わせによる相乗効果だ。例えば、協調性が高いだけだと「人の気持ちに寄り添える」けれど、誠実性が低いと「正確な事務処理ができない」ことになる。寄り添いながらも正確に処理できて初めて、人事として信頼される。逆に、誠実性が高くて協調性が低いと、「正確だけど冷たい」と思われるかもしれない。正確さに温かみをプラスできて初めて、社員に好かれる人事になる。一つの因子が高くても別の因子が低いと、そのバランスが崩れて効果が半減する。
また、人事のポジションによって求められる因子のバランスも違う。採用担当は協調性と外向性が特に重要だ。労務管理担当は誠実性が圧倒的に重要だ。人事戦略担当は開放性と外向性が重要だ。メンタルヘルス担当は協調性が高くて神経症傾向が低いことが求められる。同じ「人事」でも、ポジションによって性格の適性が違う。自分の因子スコアを知っていれば、どの領域に進むべきかの参考になる。
この「ポジションごとの求められる性格の違い」は、実際に人事部門の中で異動を考える時に役立つ。採用をやっていたけど「人と話すのが疲れてきた」と感じたら、労務管理に移る。「ルールを守る作業が物足りない」と感じたら、人事戦略や組織開発に挑戦する。人事の中でも領域が変われば、使う性格の因子が変わる。一つの領域が合わなくても、別の領域なら合うかもしれない。
この記事の話は、性格の5つの因子(ビッグファイブ)で読み解けます。自分の傾向は5分で測れます。
ビッグファイブ診断を受ける(無料・登録不要)向いていない人が陥りやすいパターン
人事・労務職に向いていない人が入ってから気づくパターンをいくつか見ていく。
協調性が高すぎて、誰の味方もできないパターン
これは人事において一番よくある落とし穴だ。協調性が高すぎると、社員の気持ちに寄り添いすぎて、本来やるべき判断ができなくなる。例えば、明らかにルール違反をしている社員に対して、「でもこの人も頑張っているし」と注意できない。パワハラの加害者に対して、「相手にも反省しているようだし」と厳しい措置を取らない。結果として、被害者は「会社が守ってくれない」と失望する。
人事は「社員の味方」であると同時に「会社のルールを守る人」でもある。この二つの役割は時に対立する。社員に寄り添うばかりで会社の規律を守れなければ、制度が崩壊する。かといって規律ばかり押し付けて社員の気持ちを無視すれば、誰も人事を信頼しなくなる。このバランスを取るのが人事の難しいところだ。
協調性が高すぎる人は、「誰も傷つけたくない」という思いから、決断を先延ばしにしがちだ。評価制度の見直しで「Aさんは上がるけどBさんは据え置き」という判断ができず、結局全員同じ評価にしてしまう。悪平等は頑張っている社員のモチベーションを削ぐ。
採用の場面でも同じ問題が出る。面接で「この人はうちのカルチャーに合わない」と思っても、「でも採用枠を埋めたいし、悪い人ではないし」と合格を出してしまう。結果としてミスマッチが起きて、入社後に早期退職される。採用の失敗は会社にとって大きなコストだ。採用広告費、面接の工数、入社後の教育コスト。すべてが無駄になる。協調性が高すぎる人は、「断る」という判断にハードルを感じる。
ハラスメントの調査でも、この傾向は厄介だ。加害者から「言い分がある」と言われて耳を貸しすぎると、いつの間にか加害者側の立場に引っ張られる。「双方に非があった」という結論に着地させようとして、被害者の不公平感を増幅させる。協調性が高いことは人事の強みだが、それが「誰の味方でもない状態」を生むと、かえって誰の信頼も得られない。
誠実性が低くて、事務処理が雑になるパターン
人事の事務処理は、一つのミスが社員の生活に直結する。社会保険の手続きの期限を1日過ぎただけで、社員が医療証を受け取れず、病院代が全額自己負担になることがある。給与計算のミスは、そのまま社員の手取りに影響する。有給休暇の残日数の管理が雑だと、社員が取得できるはずの休みを取れなくなる。
誠実性が低い人は、こうした正確さが求められる作業でミスを繰り返す。「まあ大丈夫だろう」という感覚で手続きを行い、後になってミスが発覚して慌てる。ミスのたびに社員からの信頼を失う。人事部門への信頼は一度崩れると取り戻すのが難しい。「人事に任せておけば大丈夫」と思ってもらえるかどうか。それが誠実性の差だ。
法令遵守の面でも誠実性の低さは致命的だ。36協定の届出を忘れれば、労働基準監督署の是正勧告を受ける。就業規則の改定を怠れば、法改正に対応できていない状態が続く。これらは全部、後から「やらなかったこと」が問題になる。日々の地道な管理を怠ったツケが、ある日突然回ってくる。
特に怖いのが、長期間気づかれないミスだ。社会保険の算定基礎届の数字を間違えて、気づかないうちに数年間、社員の保険料が間違った金額で徴収されていた。こういうミスは後で発覚した時の修正コストが膨大だ。社員一人ひとりに過不足を精算し、説明し、謝罪する。一度のミスの修正に数ヶ月かかることもある。誠実性が低い人は、こういう「地味だけど致命的な」ミスを起こしやすい。
評価制度の運用でも、誠実性の低さは目立つ。評価面談の記録をサボると、後で社員から「あの時こう言われた」と異議申し立てが来た時に反論できない。評価の根拠を文書で残しておくことは、会社を守るためでもある。残しておかなければ、労働審判や訴訟になった時に会社側が不利になる。誠実性が高い人はこういう「念のための作業」を当然やるが、低い人は「めんどくさい」と省いてしまう。
神経症傾向が高くて、感情的な負荷に耐えられないパターン
人事は他人のネガティブな感情に触れる機会が多い職種だ。メンタルヘルスの不調を訴える社員、ハラスメントの被害相談、退職時の怒りや悲しみ、リストラ対象者の絶望。こうした場面に何度も直面すると、神経症傾向が高い人は自分自身が消耗していく。
心理学で「共感疲労(compassion fatigue)」という概念がある。他人の苦しみに共感し続けることで、自分自身が精神的に疲弊してしまう状態だ。人事職はこの共感疲労のリスクが高い。特に、協調性も高くて神経症傾向も高い人は、他人の気持ちに敏感に反応する上に、その感情をうまく処理できない。最悪の場合、人事担当者自身がメンタルヘルスの不調に陥る。
ある人事担当者の話を聞いたことがある。メンタルヘルスで休職している社員の対応を数年続けていたら、自分自身が不眠症になったという。毎晩、社員の悩みが頭を離れず、夜眠れなくなった。産業医から「あなた自身もケアが必要です」と言われた時は、自分が社員と同じ状況に陥っていることに驚いたそうだ。こういうケースは珍しくない。
また、神経症傾向が高い人は、社員からの批判を個人的に受け取りがちだ。「評価が不公平だ」という不満を「自分が悪いんだ」と受け取ってしまう。「人事は何もしてくれない」という声に過剰に反応して、焦って拙い対応をしてしまう。冷静な判断が求められる場面で、感情的に揺さぶられる。
このタイプの人が特に苦しいのが、リストラや退職勧奨の場面だ。会社の事情で人員削減が必要になり、対象者に面談に行く。相手は怒るか泣くか黙り込むか。どの反応が来ても、神経症傾向が高い人はその感情を自分の中に引き取ってしまう。「この人の人生を壊しているのは自分だ」という感覚に苛まれる。何度か経験すると、仕事に行くのがつらくなる。
神経症傾向が高い人が人事を続けるなら、感情の距離の取り方を意識的に練習する必要がある。専門家は「感情的巻き込み」と「共感的理解」を分けることを勧めている。相手の気持ちを理解しつつも、その感情に自分が巻き込まれない。これは訓練で少しずつ身につくスキルだ。ただ、元々の神経症傾向が高すぎるとなかなか難しい。自分の限界を知っておくことも大切だ。
開放性が低くて、制度を変えられないパターン
日本の働き方は急速に変化している。リモートワークの普及、柔軟な働き方へのニーズ、多様な人材の活用。こうした変化に対応して、人事制度も変えていく必要がある。でも開放性が低いと、「前のやり方の方が良い」「今まで問題なかったんだから変える必要はない」と抵抗する。
例えば、フレックスタイム制度の導入が議論されている時に、「管理が煩雑になるからやめた方がいい」と反対する。テレワークの制度を作る時に、「出社している人と不公平になる」と懸念ばかり述べる。新しいアイデアに対して最初から否定の立場を取る。結果として、会社の人事制度が古いまま止まってしまい、優秀な社員が「この会社は時代遅れだ」と感じて離れていく。
開放性が低い人は、ルールが明確で変化の少ない環境では安定した仕事をする。ただ、人事制度の設計や新しい施策の企画では、変化への抵抗が障害になる。
一つ具体例を挙げよう。ある中堅企業の人事部長が、長年同じ評価制度を使い続けていた。社員からは「この評価制度は実態に合っていない」という声が上がっていたが、「今まで問題なかったし、変えるリスクは避けたい」と制度改定を見送り続けた。結果として、若手社員の離職率が上がり、外部からの採用も難しくなった。制度が古いことが、会社の競争力低下につながったケースだ。
開放性が低い人が人事にいると、会社全体が古くなる。人事制度は会社の体質を決める基盤だから、そこが硬直していると全部門に影響が及ぶ。経営陣が「新しい制度を導入したい」と言っても、人事が「それは難しいです」とブロックしてしまえば、何も進まない。開放性の低さは、会社の変化を阻害する壁になる。
外向性が低すぎて、社内関係が築けないパターン
人事は社内のさまざまな人とコミュニケーションを取る必要があるが、外向性が低すぎると、この部分で苦労する。現場の部署長に面接の日程調整を頼むのも億劫だし、評価面談で社員と向き合うのも緊張する。経営陣に人事施策を提案する場では、自分の意見を主張できずに通らない。
特に、採用活動は外向性が低い人には大きな負担になる。1日に5〜6件の面接をし、週末は説明会で学生の前に立ち、夜は懇親会に参加する。これが何週間も続く。外向性が低い人は、このペースを維持すると途中でエネルギーが枯渇する。人と話すこと自体は苦手ではなくても、その量と頻度が負担になる。
外向性が低い人が人事で力を発揮するには、労務管理や給与計算など、人との関わりが少ない領域に特化するのが一つの方法だ。全人事が採用をやらなければならないわけではない。自分の外向性の程度に合わせて、担当領域を選ぶこともキャリア戦略の一つだ。
複数の因子が重なって課題になることもある。例えば、協調性が高くて外向性が低い人は、「人の気持ちには敏感だけど、自分から積極的に関わりには行かない」という組み合わせだ。このタイプは、社員から相談されたら親身に対応できるが、自分から「最近どう?」と声をかけることが少ない。結果として、問題が大きくなってからようやく気づくという事態が起きる。人事は待っているだけでなく、自分から社内の空気を拾いに行く必要がある。
もう一つ、協調性が低くて開放性も低い組み合わせは、特に注意が必要だ。社員の気持ちに鈍感で、新しいやり方にも抵抗がある。こういう人事担当者がいると、社員は「人事は社員のことを考えていない」と感じるし、制度も古いまま止まる。会社にとって大きなマイナスだ。もちろん、こういう組み合わせの人でも、労務管理の正確さだけで存在価値を出すことはできる。ただ、それ以上の活躍は難しい。
どのパターンにも共通するのは、「気づかないうちに問題が蓄積している」という点だ。人事は他の職種と違って、自分の不適合がすぐには表面化しない。協調性が高すぎる人は「良い人」だと思われているから、問題に気づかれにくい。誠実性が低い人は、ミスが見つかるまで問題が表面化しない。開放性が低い人は、会社の制度が古くなってから問題に気づく。つまり、自分が向いていないことに気づくのが遅れがちなのが、人事職の厄介なところだ。
性格を踏まえたキャリアの考え方
人事・労務に向いていないと感じたからといって、「人に優しくない」とか「思いやりがない」ということではない。人事・労務が求める環境と、自分の性格の傾向が合っていないだけだ。自分に合った形で力を発揮できる環境を探す方向で考える。
人事の要素を分解して考える
「人事が合わない」と思った時、何が合わないのかを分解してみる。社員の感情的な相談に対応するのがしんどいのか、細かい事務処理が苦痛なのか、社内調整が疲れるのか、法規の改正を追うのが大変なのか。人事の中にも、採用に特化したポジション、労務管理に特化したポジション、評価制度の設計に特化したポジション、研修企画に特化したポジションがある。すべてが「フルスタック人事」というわけではない。
例えば、協調性は高いけど神経症傾向も高くて感情的な負荷がしんどい人なら、採用の企画やブランディングなど、ポジティブな関わりが中心の業務にシフトする方法がある。逆に、協調性はそこまで高くないけど誠実性が高い人なら、労務管理や給与計算、社会保険手続きなど、正確さが問われる業務で力を発揮できる。
自分の因子の組み合わせを考えると、人事の中でも合う領域が見えてくる。協調性が高くて外向性も高いなら採用。誠実性が高くて開放性が中程度なら労務管理と制度設計。開放性が高くて外向性も高いなら人事戦略や組織開発。このように、人事の中でも自分の強みに合わせて進む方向を選べる。
法令の専門性を活かす別の道
人事で労働法規の対応を経験した人は、社会保険労務士(社労士)という道もある。社労士は独立して開業でき、企業の労務管理の代行や相談を受ける専門職だ。社員一人ひとりと深く関わるのではなく、制度と法令を中心に仕事ができる。協調性があまり高くなくても、専門性で勝負できる世界だ。
社労士の仕事は多岐にわたる。就業規則の作成と届出、労働保険の年度更新、社会保険の手続き代行、労働基準監督署の立会い、労使交渉のアドバイス。人事部門で培った実務経験は、社労士の試験勉強にも実務にも直結する。社労士資格は合格率が5〜7%程度の難関資格だが、人事の実務経験がある人は法令の理解が深い分、有利に進められる。
社労士として独立すると、法人相手の仕事が中心になる。クライアント企業の人事担当者とやり取りし、手続きを代行し、法令の相談に乗る。一つの会社の中で社員一人ひとりと深く関わるのとは違う距離感だ。人間関係のドラマに巻き込まれにくい分、精神的な負担は軽い。ただし、クライアント獲得の営業活動は必要なので、全く人と関わらないわけではない。そのバランスは理解しておく必要がある。
企業の法務部門も一つの選択肢だ。労働法規の知識は法務でも活きるし、コンプライアンス関連の仕事は人事と法務の境界線上にある。労働審判や訴訟の対応、雇用契約のレビュー、就業規則の法的チェック。これらは人事と法務の両方の視点が求められる領域だ。
制度設計の経験を活かす別の道
評価制度や報酬制度の設計経験があるなら、コンサルティングファームの人事コンサルタントという道もある。一社の制度を運用するのではなく、複数のクライアントの制度設計を支援する仕事だ。社員の感情的な対応はクライアント企業の人事がやるので、制度面の設計と提案に集中できる。
人事コンサルタントは、会社の経営陣と話す機会が多い。社長や役員に向けて「御社の評価制度にはこういう課題があり、こう改善すべきだ」と提案する。現場の社員一人ひとりと関わるよりも、経営の視点から組織を俯瞰して見る仕事だ。協調性よりも開放性と外向性が活きる領域だ。
大手コンサルティングファームの人事コンサルタントの年収は、700万円から1000万円以上になることもある。企業の人事部門にいるより高い報酬を得られる可能性がある反面、営業的な要素も強くなる。クライアントを獲得し、提案し、受注する。純粋に人事の仕事をしたい人には向かないかもしれないが、制度設計に集中しつつ高い報酬を狙いたい人には魅力的な選択肢だ。
コミュニケーション能力を活かす別の道
人事の採用活動で培ったコミュニケーション能力は、営業職でも活きる。面接で相手の本質を引き出す力は、営業で顧客のニーズを聞き出す力と同じだ。社内研修で人前で話す経験を積んだ人は、講師やトレーナーの道もある。人事で培うスキルは意外と汎用性が高い。
具体的に言うと、人事で身につくスキルは以下のようなものだ。面接で培った「相手の話を引き出す力」、評価面談で培った「フィードバックの技術」、社内調整で培った「利害関係者の調整力」、研修で培った「人前に立つ力」、労務管理で培った「正確な事務処理能力」、法規対応で培った「法令リテラシー」。これらは、管理職、営業、コンサルタント、講師、法務など、さまざまな職種で活きる。
人事から別の職種に移る人は意外と多い。採用で身につけたヒアリング力を活かして営業に転じる人、労務で身につけた法令知識を活かして法務に移る人、研修で身につけたファシリテーション力を活かして独立する人。人事は「人と関わるスキル」と「制度を扱うスキル」の両方が身につくので、キャリアの選択肢は広い。「人事をやったことがある」という経験自体が、管理職への昇進においてもプラスに評価されることが多い。部下を持つ時に、人事の視点があると評価や育成がうまくいくからだ。
「人」と関わる別の形
人事に惹かれた理由が「人と関わりたい」という点にあるなら、ほかにも道はある。カウンセラーや心理職は、人の心に寄り添う仕事だ。人事のように「会社のルール」と「社員の気持ち」のバランスを取る必要はなく、クライアントの気持ちに集中できる。ただし、専門の資格や訓練が必要だ。
教育や研修の領域も、「人を育てたい」という思いを活かせる場だ。企業内研修の企画から、専門学校や大学での教職、コーチングやメンタリング。人事で社員の成長に関わるのが楽しかった人なら、この領域も合うかもしれない。
コーチングは特に、人事経験との相性が良い。社員の強みを引き出し、目標に向かって伴走する。評価制度の運用で培った「相手の能力を言語化する力」や、面接で培った「質問する力」は、そのままコーチングのスキルに転用できる。ICF(国際コーチング連盟)の資格を取得して独立する人もいる。人事の経験があれば、組織の文脈を理解しているコーチとして、企業からの需要が高い。
自分の因子スコアを知る意義
人事・労務に向いているかを知る上で、ビッグファイブの因子スコアは一つの材料になる。「協調性が高いから社員に寄り添える」「神経症傾向が高いから感情的な負荷に注意が必要」「誠実性が高いから事務処理に強い」。こういう読み取りが、自分のスコアを知っていればできる。
ビッグファイブのデータを見ると、人事・労務は協調性のベータ値が0.24と一番高い。つまり、協調性が高い人ほど人事に向いている傾向が強い。ただしこれは傾向であって決定ではない。協調性が低くても、労務管理の専門性や法令知識で活躍している人はいる。重要なのは、自分の傾向を知った上で、どういう環境でなら力を発揮できるかを考えることだ。無理に自分を変えようとするより、自分に合う環境を選ぶ方が、長期的なキャリアにとってプラスになる。
自分の性格の傾向を理解することは、キャリア選択の迷いを減らす。人事に進むべきか迷っているなら、まずは自分のビッグファイブのスコアを確認してほしい。数値として見えると、感覚だけの判断より確信を持てるはずだ。
人事の仕事は、日本の職場において今後も重要性を増していく。少子高齢化による人材不足、働き方の多様化、法令の改正。これらに対応するには、専門性の高い人事が必要だ。「何となく人が好きだから人事に」という入り方から、「自分の性格の強みを活かして人事のこの領域で貢献する」という入り方に変えれば、キャリアの満足度も上がるはずだ。その第一歩として、自分のビッグファイブの因子スコアを知ることをおすすめする。
人事は特別な才能が必要な仕事ではない。ただ、「人の気持ちに寄り添う」と「ルールを守る」のバランスを取る覚悟がいる。そしてその覚悟を持ち続けるには、自分の性格の特性を理解しておくことが役に立つ。強みを活かし、弱みに気をつける。当たり前のことだが、それを実践するにはまず自分を知らなければならない。ビッグファイブの診断結果は、その入り口になる。
最後に一つ付け加えておくと、人事の仕事で一番やりがいを感じる瞬間は、社員の成長に直接関われた時だ。入社時は緊張していた新入社員が、数年後に立派に仕事をしているのを見る。メンタルヘルスで休職していた社員が、元気に復帰して笑顔を見せる。自分が設計した制度が、社員の働きやすさにつながったという声を聞く。これらは数字では測れないが、人事ならではのやりがいだ。「人」を扱う仕事の重さと引き換えに得られるものもある。そのバランスを、自分の性格に照らして考えてみてほしい。