キャラがブレるのは、設定が形容詞のままだから
キャラクター表を作るとき、多くの人はこう書く。「明るくて社交的。でも本当は繊細」「優しいが優柔不断」。この書き方には落とし穴がある。形容詞は、書いた本人の中でしか意味が定まっていないのだ。
「繊細」と書いた翌週、自分がどんな状態で書いたかによって、その繊細さは変わる。小さな失敗を引きずる繊細さなのか、人の表情の変化に気づく繊細さなのか、大きな音が苦手な繊細さなのか。どれも繊細だが、行動はまったく違う。だから3話目で別人になる。
解決策は、形容詞をやめて数字にすることだ。性格心理学のビッグファイブは、人の性格を5つの要素の組み合わせで表す。開放性(新しさへの反応)、誠実性(計画性・自己管理)、外向性(人と刺激への向かい方)、協調性(他人への合わせ方)、感受性(不安の感じやすさ。神経症傾向とも呼ぶ)。この5つに、それぞれ1から5の数字を振る。
数字にすると、迷ったときに戻れる場所ができる。「このキャラは協調性が1だった。ここで素直に謝るのはおかしい」と判断できる。設定が判断の道具になる。
性格を5本の数字に置き換える
やり方は単純だ。キャラごとに5つの数字を決めて、名前の横に書いておく。当サイトで連載している漫画では、登場人物にこういう数字を振っている。
| キャラ | 開放性 | 誠実性 | 外向性 | 協調性 | 感受性 | 結果として何が起きるか |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 安田 | 1 | 3 | 2 | 1 | 5 | まず反対から入る。不安が強く、譲る動機もない |
| 里見 | 3 | 1 | 5 | 3 | 5 | 勢いで発信し、あとから反応が気になって眠れない |
| 沢田 | 2 | 5 | 1 | 3 | 5 | 基準を作り込む。崩れると自分を責める |
この3人を見比べてほしい。安田と沢田は、どちらも感受性が5で不安が強い。けれど誠実性が3と5、協調性が1と3で違う。だから同じ「不安」でも、安田は「やめておいた方がいい」と止める側に回り、沢田は「基準を決めて防ごう」と作り込む側に回る。不安という同じ材料から、正反対の行動が出てくる。
数字を決めるときのコツは、5つ全部を極端にしないことだ。全部が1か5のキャラは、人間というより記号になる。極端は2つまで、あとは3寄りにすると、いそうな人になる。
「感受性5・協調性1」なら、10話後でもブレない。
この記事の話は、性格の5つの因子(ビッグファイブ)で読み解けます。自分の傾向は5分で測れます。
ビッグファイブ診断を受ける(無料・登録不要)キャラがかぶるのは、同じ因子を重ねているから
何人か出したのに全員似て見える。これも数字にすると原因がはっきりする。たいてい同じ因子で個性を作ろうとしているのだ。
たとえば外向性だけで差をつけようとすると、「社交的な人」「もっと社交的な人」「引っ込み思案な人」しか作れない。5人並べれば必ずかぶる。けれど「外向性は低いが協調性が高い人」と「外向性は低いが協調性も低い人」は、まったく別の人物になる。前者は一人でいるが人には優しい。後者は一人でいて、人にも興味がない。
連載でキャラの登場順を決めるときも、この考え方を使っている。前の話と同じ因子が主役の回を続けない。不安の話の次は、几帳面すぎる話ではなく、人に合わせすぎる話にする。同じ因子が続くと、読者には「また同じような人が出てきた」と感じられてしまう。
対立は、性格から勝手に生まれる
物語には衝突がいる。だが「ここで喧嘩させよう」と決めて書くと、都合よく怒らせただけの場面になりやすい。数字があると、この順番が逆になる。
当サイトの診断には、2人のスコアから相性を計算する仕組みがある。漫画のキャラにも同じ計算を通してみると、誰と誰が衝突するかが先に出てくる。実際にやってみると、感受性5・協調性1のキャラは、ほぼ全員との相性が低く出た。つまりこの人物は、物語の中で自然に火種になる。誰かを悪者にしなくても、性格がぶつかるだけで場面ができる。
逆に、全員と中くらいの相性になるキャラも出てくる。この人は仲裁役に向いている。役割を先に決めてから性格を作るのではなく、性格を決めたら役割の方が決まる。この順番の方が、キャラは生きて動く。
計算の仕組みがなくても構わない。2人のスコアを並べて、どの因子が正反対かを見るだけで十分だ。誠実性が5と1の二人は、締切の場面で必ずぶつかる。協調性が5と1なら、頼み事の場面で。外向性が5と1なら、休日の過ごし方で。因子ごとに、衝突が起きる場面はだいたい決まっている。喧嘩させたい二人がいるなら、どの数字が離れているかを見れば、書くべき場面の方から見つかる。
全部まんなかのキャラは、主役の回が作れない
これは実際に作ってみて気づいたことだ。5因子が全部3のキャラを1人置いたところ、その人だけ主役の回を作れなかった。極端がないので、悩みも失敗も起きないのだ。
物語は、性格の偏りが生活とぶつかったところで生まれる。几帳面すぎるから予定が崩れると苛立つ。人に合わせすぎるから断れずに抱え込む。偏りがゼロだと、この摩擦が起きない。
ではバランス型は不要かというと、逆だ。誰とでも組めるという、他の誰にもない機能がある。極端な者同士をつなぐ役として、脇に置くと効く。実際、その1人は独立した回を作らないと決めて、全話に出る安定した味方として使っている。主役にできないキャラと、いなくていいキャラは違う。
悪役は「意地悪」ではなく、別の物差しで作る
悪役が薄くなるのは、協調性を1にしただけで済ませているからだ。協調性が低い人は、たしかに人に合わせない。しかしそれは「自分の考えを曲げない」であって、人を踏みつける理由にはならない。
読者が本気で嫌がる人物を作りたいなら、ダークトライアドという別の物差しを重ねるとよい。自己愛(自分を大きく見せたい)、マキャベリズム(人を手段として使う)、サイコパシー傾向(相手の痛みに動じない)の3つだ。ビッグファイブとは別の軸なので、組み合わせると立体になる。
この3つは、書き分けると別人になる。同じ「部下を追い詰める上司」でも、自己愛が高い人は手柄を奪われることに耐えられず、追い詰めた後で自分が崩れる。マキャベリズムが高い人は必要なときだけ優しくして人を動かし、最後まで崩れない。前者には感情的に壊れる場面が書けるし、後者は崩れないから怖い。どちらを選ぶかで、物語の終わり方まで変わってくる。
ここでもう一段深くするコツがある。悪役に高い誠実性を持たせることだ。計画的で、約束を守り、仕事ができる。そういう人物が、人を手段として使う。だから怖い。誠実性が低い悪役は、ただの乱暴者で終わってしまう。
数字どおりに動かすと、人形になる
最後に、いちばん大事な注意を書いておく。スコアに忠実すぎるキャラは、人ではなく機械になる。人間は自分の性格から外れた行動を、日常的に取っている。
だから各キャラに、数字を裏切る場面を1つだけ用意する。協調性1の人物が、たった一人にだけ気を遣う。感受性1の落ち着いた人物が、ある話題のときだけ動揺する。その1回のために、それ以外は数字どおりに動かしておく。普段が一貫しているからこそ、外れた瞬間が読者に刺さる。
キャラ設定の数値化は、キャラを型にはめるための道具ではない。どこで型を破るかを、自分で分かっておくための道具だ。ブレと、意図した逸脱。この2つは読者から見ると同じに見えるが、書く側が区別できていれば、後者は必ず伝わる。
今日から試すなら。今書いているキャラを1人選んで、5つの数字を振ってみてほしい。迷ったら、そのキャラが取った行動から逆算する。決まらない因子があるなら、そこはまだ作り込めていない部分だ。数字が埋まらないところに、次に考えるべきことがある。