同じ「おごる」でも、理由は一つではない
会計になると、いつも「今日は出すよ」と言う人がいます。気前がよくて助かる一方、「なぜ毎回?」「何か返したほうがいい?」と落ち着かないこともあるでしょう。
考えられる理由には、相手が喜ぶのを見る楽しさ、お世話になったお礼、一緒に過ごす時間への気遣い、頼れる人と思われたい気持ちなどがあります。先輩が払うものだと思っている場合や、割り勘の計算を早く終わらせたい場合もありそうです。
これらは日常の場面を整理するための見方で、誰かの動機を判定するチェック表ではありません。一人の中にいくつもの理由が混ざることもあります。「好かれたい気持ちが少しあるなら、親切は全部偽物」と考える必要もありません。
相手の希望を聞けるかに目を向ける。
本音を推測し続けるより、「今日は自分で払いたい」と伝えたときの受け止め方を見るほうが、付き合い方を考えやすくなります。
一度の支払いで、性格は決まりません。ビッグファイブ診断では、複数の質問への回答から、普段の人との関わり方や考え方を振り返れます。
自分の五つの性格を測る(無料)人に使うお金が、自分の喜びになることもある
Dunnらの研究では、参加者に5ドルまたは20ドルを渡し、その日のうちに自分か他人のために使ってもらいました。他人のために使うよう割り当てられた人は、自分のために使う人より、夕方に報告した幸福感が高くなりました。[1]
ただし、「おごれば必ず幸せになる」とは言えません。Akninらの2020年の追試では、他人のために実際に買い物をする実験で幸福感の差が見られた一方、過去の支出を思い出す実験では差が出ない場合や、小さい差にとどまる場合がありました。[2]
研究が扱ったのは、他人への支出とそのときの幸福感です。「いつもおごりたがる人」の動機を直接調べたものではなく、日本の食事会で同じ結果になるとも限りません。
それでも、相手の笑顔を見て自分もうれしくなる、という説明には研究上の手がかりがあります。受け取る側が「何か裏があるはず」と身構える前に、本人がその時間を楽しんでいる可能性も残しておけます。
また、この研究から、金額を増やすほど喜びが大きくなるという結論は出せません。高い食事をごちそうすることと、小さな飲み物を一つ渡すことを、気持ちの深さの順位に置き換えないほうがよいでしょう。
「したい」と「しなければ」の違い
WeinsteinとRyanは四つの研究で、人を助けるときの動機を調べました。自分で選んで助けることは、圧力に動かされて助けることに比べ、助けた側と受けた側のよい状態につながるという結果でした。[3]
これは援助全般の研究で、おごりを直接比べた実験ではありません。食事の支払いに当てはめるなら、「自分がしたくて払うのか」「払わないと嫌われる気がしているのか」を分けて考える手がかりになります。
たとえば、楽しめる範囲で「今日はお祝いだから」と払うのと、生活が苦しいのに「ここで出さないと付き合ってもらえない」と払うのでは、自分の負担が違います。相手への気遣いが、自分を追い詰める義務になっていないかは確かめてよいところです。
おごる側なら、「今月はここまで」「毎回ではなく、特別な日だけ」と先に範囲を決める方法があります。支払い以外にも、話を聞く、次の店を探す、お礼を伝えるなど、関係を大切にする方法は残っています。
一回でも割り勘にすると関係が壊れると感じるなら、お金で埋めようとしている不安は何かを考えてみます。これは性格が悪いという話ではなく、無理のある付き合い方に気づくための問いです。
困るのは、おごりが後から条件になるとき
気前のよさそのものより気をつけたいのは、「前におごったのだから」と、後から相手の行動を縛る使い方です。誘いを断ると不機嫌になる、頼み事を断れない空気を作る、おごった金額を何度も持ち出す。そんなときは、受け取る側の負担を軽く見ないほうがよいでしょう。
反対に、お礼を受け取って終わる、断られても尊重する、次は割り勘という希望に応じるなら、少なくともその場では支払いを条件にしていません。内心を完全に見抜かなくても、安心して付き合える行動かどうかは考えられます。
「おごってくれたから恋愛感情がある」「よく払うから協調性が高い」とも決められません。立場、収入、習慣、その日の事情でも支払い方は変わります。今回の研究だけでは、特定のBig Fiveの傾向と、おごる頻度を結びつける根拠は足りません。
おごられたことへの感謝と、その後のお願いに応じるかは分けてよいものです。「ごちそうはありがとう。でも、その予定には行けない」と言える関係を目安にすると、金額の大小より役に立ちます。
気まずくならない受け取り方、断り方
受け取るか迷ったら、相手の本音を当てるより、自分が無理なく受け取れる条件を伝えます。毎回なら「次からは割り勘にしたい」、高額なら「この金額は気が引けるので、自分の分は出したい」と具体的にします。
受け取るとき:「ありがとう。今日はご厚意に甘えるね」と言葉にする。同じ金額を返す約束まで、その場で背負わなくてよい。
断るとき:「一緒に来られただけでうれしい。今日は自分の分を払うね」と、気持ちへのお礼と希望を分ける。
おごるとき:「今日は出したいけど、割り勘がよければそうしよう」と、相手が断れる余地を残す。
何度も押し問答になるなら、食事の前に支払い方を決めておくと会計の負担を減らせます。相手を疑うためではなく、一緒の時間を楽しむための取り決めです。
おごりは、好意を伝える一つの方法です。相手の喜びと自分の余裕の両方を守り、断られても関係を続けられる形にすると、受け取る人も「借りを作った」と感じずに済みやすくなります。
支払いの一場面から、人柄を決めない
ビッグファイブ診断は、協調性や外向性を含む五つの傾向を振り返る道具です。誰がおごるべきか、相手に見返りの意図があるかを判定する検査ではありません。
参考にした研究
- Dunn EW, Aknin LB, Norton MI(2008)Spending money on others promotes happiness. Science, 319(5870), 1687–1688. DOI
- Aknin LB, Dunn EW, Proulx J, Lok I, Norton MI(2020)Does spending money on others promote happiness?: A registered replication report. Journal of Personality and Social Psychology, 119(2), e15–e26. DOI
- Weinstein N, Ryan RM(2010)When helping helps: Autonomous motivation for prosocial behavior and its influence on well-being for the helper and recipient. Journal of Personality and Social Psychology, 98(2), 222–244. DOI