箱を開けた瞬間に、少し満たされる

ランニングシューズなら朝に走る自分、画材なら作品を仕上げる自分、楽器なら人前で演奏する自分。道具を選ぶ時間には、未来の自分を具体的にする楽しさがある。レビューを比べ、必要な物をそろえ、届いた箱を開ける。気分が上がるのは自然なことだ。

ただ、準備がうまく進むほど、始める前から一仕事を終えたようにも感じる。趣味を始めるには、調べる、選ぶ、注文する、置き場所をつくるという作業がある。どれも目に見える達成感を返してくれる一方、実際に弾く、描く、歩くこととは別の行動でもある。その二つが近すぎるため、購入を入口ではなく、到着点のように受け取ることがある。

KooとFishbach(2008)は、目標に関係する達成済みの行動を、目標への「進み具合」と見るか、目標への「思いの強さ」の印と見るかで、その後の意欲が変わり得ることを示した。前進した感覚が強いときは、残りの努力を急がなくなる場合がある。反対に、やりたい気持ちの確認として受け取ると、次の行動へ進みやすい場合もある。

ここで大切な限界

この研究は趣味の買い物を直接調べたものではない。「カメラを買うと練習しなくなる」と証明した研究でもない。本稿では、購入による満足と実行のずれを考える補助線としてのみ扱う。

問題は、買ったことではない。箱を開けた満足を、実際に使った満足と同じ欄に記録してしまうことだ。買う行為は準備として完了している。けれど趣味としての経験は、まだ始まっていない。この区別がつくと、棚にある物を失敗の証拠にせず、次の一回を始める道具として見直せる。

道具をそろえることと、手を動かすことは別の仕事

道具を買うまでには、比較、価格の検討、配送の手配など、終わりがはっきりした作業が並ぶ。迷っても、注文ボタンを押せば一区切りつく。一方で、練習や制作には「今日は何をするか」「うまくできなかったらどうするか」という曖昧さが残る。上達が見えるまでにも時間がかかる。

その差は意志の弱さだけでは埋まらない。やりたいという目標だけでは、いつ・どこで・何をするかが決まらず、日常の予定に押し出されやすい。Gollwitzer(1999)が整理した実行意図は、「もっと練習する」のような願いを、「火曜の夕食後、机で10分だけコードを押さえる」のような条件つきの計画へ変える考え方だ。大きな決意より、行動が始まる場面を先に決めることに意味がある。

購入の計画と使用の計画を分けてみよう。「必要な道具を選ぶ」は一つの予定、「土曜の10時に15分だけ試す」は別の予定にする。買った日を初回に数えない。開封、準備、実行を同じ一回にまとめない。すると、道具を持つことと趣味をしたことの間にある距離が見えやすくなる。

初心者の時点では、何が自分に必要かは、実際に数回やってみないと分からない。置き場所がない、重くて出すのがおっくう、思ったより音が大きい。反対に、なくても困らない機能が見つかることもある。商品ページを見ているときの理想と、生活の中で使う条件は別だ。最初から一式を完璧にそろえなくてもよい理由は、ここにある。

この記事の話は、性格の5つの因子(ビッグファイブ)で読み解けます。自分の傾向は5分で測れます。

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「三回続けてから買う」は、我慢のための決まりではない

まず借りる、家にある物で試す、安い方法で始める。そして三回やってから買う。これは欲しい物を我慢するための決まりではない。購入を、憧れの証拠ではなく、次にやる行動を少し楽にする投資に戻すための順番だ。

三回は、習慣が身につく科学的な回数ではない。Lallyら(2010)の研究では、同じ場面で行動を繰り返して自動的に行える感覚が育つまでの期間には大きな個人差があり、95%に達するまで18日から254日まで幅があった。三回で定着すると言う根拠はない。

それでも三回には役割がある。一回目は好奇心、二回目は準備の面倒さ、三回目は生活の中に置けるかを確かめる機会になる。三回とも楽しい必要はない。「またやってもよい」と思えたか、道具を出すまでが重すぎなかったか、終わったあとに少し満足したか。その答えが分かれば、買うべき物も、買わなくてよい物も見えてくる。

たとえば編み物なら、最初は手頃な毛糸と針、または体験会で試す。写真なら手持ちのスマホで三回撮り、撮りたい場面が見えてからカメラを検討する。登山なら近くの短い道を三回歩いてから靴を選ぶ。「本気の人だけ買ってよい」というふるいではない。自分の生活に合うかを、道具に先回りさせず確かめる方法だ。

性格は、購入癖の診断にはならない

新しいものにひかれやすい人は、ビッグファイブの開放性が高い傾向と重なる場合がある。計画を守ることが心地よい人は、誠実性の傾向と重なるかもしれない。けれど、そこから「開放性が高いから道具を買いすぎる」「誠実性が低いから続かない」とは言えない。

趣味の道具の購入とビッグファイブの関係を直接確かめた研究は、今回確認できた範囲では十分ではなかった。購入には収入、広告、住環境、周囲の影響、過去の経験なども関わる。性格は誰かを決めつけるラベルではなく、自分が動きやすい条件を探す補助線として使う方が安全だ。

診断結果は、「買うべき道具」を決める表ではない。
「どうすれば次の一回を始めやすいか」を考える材料になる。

新しさで気分が上がるなら、買い替える代わりに同じ道具で新しい題材を一つ試す。決まった手順が安心なら、次に使う日をカレンダーに入れ、出しやすい場所に置く。人と約束すると動きやすいなら、三回だけ体験会に申し込む。性格の名前で自分を縛るのでなく、買う前の熱を実行へ渡す工夫に変えていく。

次の十五分を先に決める

買う前に一つだけ問いを置くなら、「これが届いた翌日に、何を15分するか」。答えられないときは、買ってはいけないという意味ではない。今ほしいのは道具ではなく、未来の自分を想像する楽しさかもしれない、と分けて考える合図になる。想像を楽しむ買い物にも価値はある。ただし趣味を続けたい目的とは、会計を別にしておく。

答えは、上達につながる立派な内容でなくていい。「ギターをケースから出して一音鳴らす」「スケッチブックを机に置き、丸を三つ描く」「動画編集ソフトを開き、素材を一つ読み込む」。始めるまでの抵抗を小さくして、終わりも先に決める。十五分でやめても、次に再開する場所が残る。反対に、最初から二時間やろうとすると、忙しい日には予定そのものを見送る理由が増えてしまう。

道具を買うことが悪いのではなく、買ったあとに何をするかを購入と同じくらい具体的にする。その順番なら、良い道具を選びたい気持ちも大切にできる。三回試して見えた不便を解決するために選ぶなら、道具は「始めた気」にさせるものではなく、続ける手間を減らす味方になる。

すでに道具が棚にあるなら、購入の反省から始めなくていい。出して、説明書の最初だけ読む。一本だけ線を引く。ベランダへ出て一枚撮る。十五分で終わる行動を、次の予定に置く。続いたかどうかは、その後で確かめればよい。

欲しい理由と、使う予定を別々に言葉にするだけでも、勢いのままの判断から少し距離を取れる。買うか迷う夜には、翌日の十五分を先に予定へ入れてみる。その予定が無理なく置けるなら、道具は始めるための助けになりやすい。置けないなら、まずは借りる・試す方法を探せばよい。

道具だけが増えた棚は、失敗の展示ではない。何かを始めたいと思った回数が残っている場所でもある。次に一つ選ぶなら、まず十五分。三回やってから、必要になったものだけを迎える。趣味は立派な道具を持つことではなく、自分の時間を少し使ってみるところから育っていく。

自分が動きやすい条件を知ろう

性格で趣味を決めつけるのではなく、どんな環境で自然に一歩を始められるかを知る材料として、ビッグファイブを測ってみてください。

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参考にした研究

  • Koo M, Fishbach A(2008)「Dynamics of self-regulation: How (un)accomplished goal actions affect motivation」PubMed
  • Gollwitzer PM(1999)「Implementation intentions: Strong effects of simple plans」著者所属機関の論文ページ
  • Lally P, van Jaarsveld CHM, Potts HWW, Wardle J(2010)「How are habits formed: Modelling habit formation in the real world」Wiley Online Library